彼の優しさはプリンのように【os】↑続 ページ19
都会の夜はうるさい。
パチンコ屋の音楽、キャッチの声、飲んだくれた男のうめき声、阿鼻叫喚である。
私の趣味は、部屋着のまま夜の街を散歩すること。
一歩外へ出れば、人、人、人。私は独りじゃないと思える。
これだけが、私の心を救う、唯一の方法であった。
しかし一人は最高だ。何にも考えなくていい。知らない相手のご機嫌取りもしなくていい。
彼のことも、思い出さずに済む。
ドン
誰かにぶつかって、こけてしまった。
彼の吸っていた煙草のにおい。
なつかしいな。
…引っ越ししよう。
あの部屋にいるから、こんな事を考えてしまうんだ。
ここ数か月、まともな食事もせずふらふらと生きていた私は、さぞひどい顔をしているんだろう。行き交う人々が、不快そうに顔をしかめて見つめてくる。
立ち上がる気はあるものの、地面を押す手に元気がない。
ここでのたれ死ぬのもありかも。
「A！？」
誰だっけ。
「A？！聞こえてる！？体調悪いの？顔色悪いな…
…引っ越してないんやったら、あそこの家やんな？送る。」
『オスマン…さん』
「そうそう、オスマンさんやで。」
彼は会社帰りか、スーツ姿のまま私をおんぶした。
皺出来ちゃう。ごめんね。
彼と同棲していた時、一度招待したことがあったからか、迷うことなくお家まで戻ってきた。玄関で私を降ろし、こう言う。
「靴脱いで。お風呂、入れる？着替えはどこかわからん。Tシャツでいいなら持っていく。
早く入ってきて。コンビニで飲み物、買ってくるな。」
家を出ようとしたオスマンさんのスーツの裾を掴んだ。
うしろ姿が、彼と似ていたからなのか。
オスマンさんはびっくりした表情のあと、眉尻を下げて口を開いた。
「すぐ帰ってくるから。お風呂であったまっといてね。」
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作者名：ミルコ | 作成日時：2019年11月2日 14時
