貴方以上の人は現れない【htrn】 ページ18
「よし…これで全部かな。」
『…うん。』
彼の荷物がなくなったこの部屋。
私の荷物はまだあるというのに、からっぽな箱に見えるのは、
この部屋が、彼という存在とともにあったからだろう。
「俺の荷物まだあったら、捨てといてくれていいから。」
『わかった。』
「…あ、そうだ。」
二人の思い出の写真を貼っていたコルクボードに、彼は近づく。
「これ、もらっていい？」
指をさしたのは、二人が恋人になった日に撮った写真。
彼との写真がたくさん飾ってあるコルクボードから、一枚取り去った。
初恋の彼に、3回目のデートで告白されて嬉し泣きをした私の目は赤く、アイシャドウがとれていたので、見るたびに恥ずかしい思いをしたものだ。
『…持って行ってどうするの？』
「…思い出、だから。」
写真を見ながらそう言っている、彼の横顔を見ることはできなかった。
見る資格はないと思った。
「…俺、お前と結婚して、お前を幸せにできるのは、俺だと思ってた。」
『！』
「仕事行って、残業して帰ってきたら、Aが玄関まで迎えに来てくれて、
一緒にご飯食べて、だらだらテレビ見て寝る。
休みの日は遊びに行ったり、たまには家でゴロゴロするのもいいな…って。」
「って、なんでお前が悲しそうなの。わけわかんねえよ。」
『…』
「幸せにしてやれなくてごめんな。」
「じゃあな。元気で。」
大きなキャリーケースを引きずって出て行った彼は、
最後に、私の額にキスをした。
閉じた扉の音を聞いた瞬間、涙がこぼれた。
嗚咽を止めないと、聞こえちゃう、今さら、私が泣いちゃいけない、
喉に何かが引っ掛かって苦しい、胸はバクバクいってうるさい、
耳は音をシャットアウトしたように何も聞こえない。
どうしてこうなったのか、私にも彼にもわからない。
“あの日に戻りたい”
コルクボードを抱きしめて、涙が出なくなるまで泣いた。
彼が出て行った頃は明るかった空が、私の涙とともに暗くなっていく。
雨が降ってきた。
やめてよ。
この部屋に残る彼の煙草のにおい。
それだけは消さないで。
.
彼の優しさはプリンのように【os】↑続→←副流煙で、一緒にﾀﾋにたい【ut】
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作者名：ミルコ | 作成日時：2019年11月2日 14時
