心にもないことを【ut】↑続 ページ12
「ええんか」
『ええねん。』
ホテルのベッドに押し倒したところで、彼はそう聞く。
「シッマ、お前のこと好きやったぞ。」
『そうやったとしても、あいつは私を抱かなかった。』
「あいつなりに大切に思ってたんや」
『そんなわけない。…やとしたら分かりずらいわ。』
「…電話。出ろ。ずっと鳴っとる。集中できん。」
そう言った彼は、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻きむしりながら、煙草に火をつけた。
カバンからスマホを取り出す。
着信画面には、だいすきな彼の名前。
『ねえ、鬱が出てよ。』
「なんでやねん。」
そう言いつつも出てくれる彼は、トラブルに巻き込まれやすいタイプだろう。
「もしも…シッマうるさいわ。え？僕、僕、鬱やで。
いや、Aちゃんの初めての客、俺やからさ。…場所？」
彼は私に目くばせする。
私は彼に首を振った。
「Aちゃんが、教えてほしくないって。教えられんわ。
…かわる？」
彼は私に電話を差し出した。
正直出たくはない。シッマの説教じみた話を聞きたくはなかった。
でも自然と、電話にすがるように手を伸ばした。
“A！？…ごめん、ごめんな、俺、ずっとお前がいるもんやと思って、
そばにいるのが当たり前って、ずっと、ごめん、俺、お前のこと、好きやった、
ずっと、でも、体だけとか、そういうの、いややった、だから、ちゃんと、ごめん、
…嬢なんて、やるなよ！なあ！A…”
目の前の彼が電話を切ったので、それ以上は聞こえなかった。
ずっと聞きたかった言葉を聞けたのに、悲しかった。
“この期に及んで“、そういう気持ちが強かった。
「ほな、もういいかな」
彼は、私のスマホをベッドの端に放り投げ、抱きしめた後、キスをした。
「そのかわいいリップ、とれてしまうのもったいないなあ」
ベッドに再び押し倒されて、弄られる。
「そのワンピース、新品？よう似合ってる。」
好きな人から聞きたかった言葉は、目の前の彼がくれた。
好きな人としたかったことは、目の前の彼と、
はたまた、どこか知らない町で、知らない人とするんだろう。
『初めてやから、優しくしてね』
「当たり前やん。Aちゃん、好きやで。」
.
その涙は悲？笑？喜？【tn】→←『鬱、お願いがあるの。』【kn】
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作者名：ミルコ | 作成日時：2019年11月2日 14時
