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「変じゃあないよ。仲良くなれたみたいで私も嬉しいもの。…また明日ね、仗助くん」
「!おう、また明日な!」
ぱあっと明るい笑みを浮かべて、仗助は足取り軽く帰っていった。
ぱたんとドアが閉まれば、家はいつもの静けさを取り戻した。
Aは大きく大きく息を吐いた。
仗助は何も変じゃない。変なのはきっと、Aの方だ。
肩から力が抜けて、いつもとは違う緊張の仕方をしていたのだと気付かされる。
あのとき彼の顔が見えなくて、自分の顔を見られなくて良かったと思う。
風邪でも何でもないのに、顔の熱が映るなんて変な話だ。
(だって……あの『仗助くん』だもの。緊張しても、無理ないでしょう?)
心の中で言い訳を並べても、触れた頬はやっぱり熱かった。
◇◇◇
ドアが閉まるのを目と耳で確かめた仗助は、人様の玄関先だというのも構わずその場に座り込んだ。
片手で覆った頬が平熱以上の温度を帯びているような気がして、情け無くため息を吐く。
(何やってんだ俺ェ〜〜〜!!)
酔ってたんだから仕方ないと片付けるしかないというのに、「それにしたって」と後悔が積もっていく。
頭の中で「火照りもじきに引く」との言葉が木霊して、仗助は眉間に力を込めた。
それはそうだ。レイヴィング・ナイトの能力はちゃんと効いている。なんせ、両足で力強く立ち上がった時点で、酒特有の熱っぽさはきれいに『眠って』いるから。
では何故肌の赤みが消えないのか。自問すらしたくない仗助は小さく唸った。
恐るべしアルコール。
ほとんど話したことのない女子からも「仗助くん」と呼ばれることが当たり前の仗助が、名前呼びに慣れているのは仕方ない。
しかし子供が駄々を捏ねるような言い方にあの距離感とくれば、恥じるなという方が無理な話である。
(……けど、これで今度からAも)
そう思うと、五百歩くらい譲って結果オーライにしてもいいような気がしてきた。
いつまで玄関先に居座る気だと立ち上がる。
確かに足腰への力の入り方が鈍いように感じたので、今晩のゲームは諦めた方がいいだろう。
『仗助くん』
思い出した声に、やっと普段の白さを取り戻した顔が自然と緩む。
あちこちから声をかけられるのを馴れ馴れしく思ったことはないし、人からの呼び名に頓着するタチではない。
けれど彼女のあの声が紡ぐなら、真面目な『東方くん』より、下の名前の方が耳に心地よく感じたのは事実だった。
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こうもり - あげなすびさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2022年9月14日 7時) (レス) id: 9309100d6a (このIDを非表示/違反報告)
あげなすび(プロフ) - 面白いですっ...!!これからも応援します! (2022年9月14日 0時) (レス) @page3 id: a4623d5dd3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こうもり | 作成日時:2022年9月3日 22時