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「おや、貴方は確か……インペリアル寮のアフティ、でしたね」
「ジゼラ大司教？俺の名も覚えてらっしゃるんですか」
「僕の講義を受講している学生は皆覚えていますよ。貴方は特に、顔と名が一致するのが早かったですね。何せ、稀有なオッドアイをしていますから」
「……ありがとうございます」
僕が彼の目について触れると彼は一瞬だけ目を逸らし、何かを回想したように微かに瞳を揺らした。
ああ、小さな地雷を踏んだ気がする。御赦しあれ。僕は居もしない神に懺悔し、言葉を続けた。
「望んで得られるものではありませんから、大切になさって下さいね。間違っても抉られぬように」
「えっ……」
「ふふ、あまりに美しいものでしたので。趣味の悪い諧謔を申しました」
僕は口許に軽く手を当てて微笑んだ。若干引いた彼の様子に愉悦が湧いた。純粋な信徒のなんと愛おしいことか。
不思議そうな表情を浮かべる彼に僕は続ける。
「いえ、僕もそのような経験を致しましたので。貴方にもその禍殃が起こらぬようにと願ったのです」
彼は言葉に困ったようで、白灰に染まった長めの前髪を払っていた。僕は歩みを進める。教室へ向かいましょう、と促せば彼は素直についてきた。
「一つ昔話をしましょう。おおよそ20年前……貴方の生まれる前の話です」
僕はポツリポツリと話し始めた。彼は天啓を承るように口を閉ざして傾聴していた。
「この地から北方に、『悪魔の血肉を喰らうと不老不死になる』という根も葉もない噂が広まっていたのです。大方、弱者の戯言だったのでしょうが、その世迷言に蜂起した人間がいたのです」
「悪魔の血肉……ですか」
「ええ。そんなもの口にしても不味いだけなのですけれどね」
クスクス、と笑みを溢す。彼は一切笑わずに表情を固くして緊張を漂わせた。
確かに人を慈しみ愛する事の出来るイヴィル信徒には面白い話ではなかったか。僕は自戒する。
「それで、ある悪魔の少年は人間に捕まってしまったのです。手足を拘束され、口枷を付けられ……その悪魔の少年は人間の所業をさぞ恐れたでしょうね」
そこまで話を進めて僕は足を止める。306号教室。講義で使う教室だった。僕は一歩下がり、彼を先に入室するよう促した。
「ふふ、他愛もない話は此処までですね。機会があれば、続きを聞いて頂けますか？」
僕は背中に張りつめる、決して忘れぬ痛みを嘲って微笑んだ。
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流離いのsecret(プロフ) - キューブさん» お話拝見しました〜！あたたかく素敵なお話ですね……！ラクーナさんの家族思いが伝わります。ご夫婦のイヴィルに対する気持ちの違いが深いですね……！ (2021年9月12日 18時) (
レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新完了しました！なんだかよく分からない締め方になってしまいましたね… (2021年9月11日 19時) (レス) id: 8222095e45 (このIDを非表示/違反報告)
流離いのsecret(プロフ) - to:叶様 うちの大司教を使って頂きありがとうございます〜！寮と名前を言い当てるくだりは、前ページのお話を汲んで下さったのでしょうか！無宗教であるカナアさんにとって大切な宗教が見つかると良いなと思う素敵なお話でした！ (2021年9月5日 10時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
流離いのsecret(プロフ) - 本編始動にあたって、一編お話を書いてみました！皆様も是非執筆してみて下さいね！編集する際は此方に報告をお願い致します！ (2021年9月2日 21時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
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