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「ですから、大聖堂にも聖クロイツにも偶像が無いのです。ヒトの想像がいくら絶佳な偶像を生み出したとしても、それは単なる虚像に過ぎないのです」


僕はかつての巡教を思い出しつつも優しく理解しやすいように言い換えて御託を並べた。
教壇の前で凛と姿勢を正せば、学生らの背筋も伸びていく。


「ですが、イヴィル教に属する者の皆が崇拝方法を同じくしているわけではありません。宗教にはありがちな、同床異夢であるというわけですね。纏めますと……」


黒板に白い石灰で『大聖堂』『他教会』と分別して書き、


「僕ら大聖堂の者は十字架に祈りを捧げるものですが、他の教徒は異なる場合もあります。先程述べた偶像に祈る場合ですね」


大聖堂の下に白い十字を刻み、他教会の下に聖像・絵画……などと書き込んでいく。
僕がそうすれば控帳にペンを走らせる音が満ちる。真面目な学生が多いようだ。
他宗教の信仰対象を偶像という言葉で纏めながら、僕は心の中で感心した。


「しかし、それが間違いというわけではありません。僕らは偶像崇拝を致しませんが、否定もしません。祈ること自体に意味があるからです。ですから、偶像崇拝を間違いと言って非難する事こそ心貧しき過ちとなるので、お気を付け下さいね」


偶像の文字を強調するように下線を引き、学生らへ微笑みかける。
此方に向けられる視線の幾つかに、この悪魔を尊崇するように仰ぎ見る視線が混じっていた。

これこそ偶像たるや。僕が崇拝されるなど。
黒い(はらわた)の前で手を組んで学生らを俯瞰すれば、哀れだからこそ愛おしく思えるこの慕情が溢れ出す。

学生の記帳が終わったのを確認し、僕はゆっくりと瞳を閉じ胸の前に祈りを掲げた。
丁度リンゴンと終業のベルが安らかに轟く。


「さあ、本日の講義はここまでです。お疲れ様でした」


僕は一礼して教壇を降りる。ざっと教室を一瞥すれば、かの麗しきオッドアイを持つ彼と視線があった。

彼の希少な瞳と同じように、僕の狭隘な良心も失わぬよう抱き締めていなければ。本当に、慈愛の皮を被った邪神に成り変わってしまうだろう。

僕は、その事に気付かせてくれたアフティに感謝の一礼をして去った。
妙に背に広がる疼痛が脈を打ったような気がした。


† † †

みぃぽ様宅のアフティさんをお借りしました!
口調や反応などが凄く難しくて、上手く表現出来なかった気がします……。

無宗教の私の印象/カナア・ヴァンルージュ→←†



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流離いのsecret(プロフ) - キューブさん» お話拝見しました〜!あたたかく素敵なお話ですね……!ラクーナさんの家族思いが伝わります。ご夫婦のイヴィルに対する気持ちの違いが深いですね……! (2021年9月12日 18時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新完了しました!なんだかよく分からない締め方になってしまいましたね… (2021年9月11日 19時) (レス) id: 8222095e45 (このIDを非表示/違反報告)
流離いのsecret(プロフ) - to:叶様 うちの大司教を使って頂きありがとうございます〜!寮と名前を言い当てるくだりは、前ページのお話を汲んで下さったのでしょうか!無宗教であるカナアさんにとって大切な宗教が見つかると良いなと思う素敵なお話でした! (2021年9月5日 10時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
流離いのsecret(プロフ) - 本編始動にあたって、一編お話を書いてみました!皆様も是非執筆してみて下さいね!編集する際は此方に報告をお願い致します! (2021年9月2日 21時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:参加者様一同 x他3人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年9月2日 21時

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