やすくんと年下組 part11

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錦戸side

いつだったか。仕事がうまくいかなくて、夜の街をふらふらしていたある日。


耳を惹きつける音色を奏でていたのが、章ちゃんやった。

その曲調は独特で、歌詞もまた独特で、聞く人によって感じるものがちゃうんやろなっていう曲。

俺には、何かを成し遂げたくてもがいて、でも何も掴めないでいる若者の叫びに聞こえた。そして、涙を流した。


人見知りやから話しかけられもせず、汗流して稼いだ金を、汗流して歌う彼に渡すことしかできなかった。でも向こうから話しかけてくれて、章ちゃんって呼ぶようになって…


俺は今、章ちゃんに片想いをしている。


どこが好きかって言われれば、いろんなものを表現できる豊かな感性。諦めない強さ。誰も傷つけない優しさ…身体の小ささとか、笑ったときの前歯とか、目尻とか…。


ほんまは曲が終わった後キスしたくなるし、別れ際には抱きしめたくなるのに、章ちゃんはたぶん俺の気持ちには気づいてへん。


散々いろんな店を回って探した手袋をあげたら、こっちがあったまるような笑顔をくれた。もう、可愛いすぎて…直視できなくて困る。俺はおまえのためならいくらでも貢ぐかもしれんわ。

「ねぇ、錦戸さん」

「ん…？」

「連絡先、交換してくれへんかなぁ」

「！！」


俺がずっと言い出せなかったこと。

ちょっと頬を染めた章ちゃんから言われて、かあっと身体が熱を帯びた。

いそいそと携帯を取り出してLINEをゲット。ずっと聞こうと思ってたんよぉってはにかむその顔！反則級に可愛いからな！

「アイコン、かわええな。飼い犬？」

「うん！実家で4匹飼ってる。会いたいなあ…」

俺と会えない日にもそんな顔してほしい、なんてアホなことを考えてたら、もう9時になるとこやった。

「…まだ話したいけど、遅くなってまうからな」

「もうそんな時間かぁ。今日もありがとう！」

すぐそこにある駅の構内まで送ってくのが、俺の最後の楽しみ。

いつかその手を繋いで、俺の家の方面に一緒に帰れる日が来たら…って思ってるんやけど、君の無邪気な笑顔を見ると、今日も手を振ることしかできなかった。

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