音にゆだねて 3

○不器用なひと・abnb ページ23

(「頼れるひと」「意地悪なひと」と同じふたり)

［ab］


熱を出した翔太の看病をした(序に美味しく頂いた)数週間前、ぐっと冷え込んだ今週。


「っくしょん！！」


遂に炬燵で寝て風邪をひいた。でも今日は打ち合わせだけだから、書記に徹していれば怪しまれないはず。


「おはよ、あべちゃん。書記頼むね」
「うん、任せて」


ふっかから任命されて一安心。打ち合わせはいろんな意見が飛び交って、俺は書くので手一杯。咳が出ることもなく、平穏に終わっていく。


「終わり〜。あべちゃんありがとね」
「いえいえ」


具合の悪い日は寝るに越したことはないから、帰り支度を早々に済ませたら、翔太が俺の手をとった。


「翔太？」
「おれもあべちゃんち帰る」


人前であまりこういうことをしないから面食らってしまった。茶化されても難しい顔のままで、家に帰りついた途端ぐいぐい手を引いて寝室に一直線の翔太。


「…なんで」
「へ？」
「具合悪いの、なんで言ってくれないの」


口をへの字に歪めて、悔しいような怒ったような顔。隠しきれたつもりだったのに、お見通しだったみたい。


「ごめん、大したことないと思って」
「…心配した、元気なかったから」
「ありがとう。さすがにちょっと疲れた」


翔太も隠してたでしょ、なんて言葉は飲み込んだ。今ならあの時の彼の気持ちを分かってあげられる。好きな人に心配掛けたくないんだ。


「…ん、？」
「待って涼太、卵割ってな…ぅわぁ？！」
『あ〜絶対殻入ったじゃん…阿部、可哀想』
「うるせぇ！取ったし混ぜた！次は？！」


昼寝から目覚めると、スピーカー越しの舘さんの声、翔太の悪態、卵という言葉で、夕飯を作ってくれていることがわかった。


「亮平寝てる…？」
「起きてるよ」
「食べる？卵のお粥」


こそっと現れた翔太が持ってきてくれた卵粥は不器用なやさしさの味がして、不思議と心も身体も休まる気がする。


「翔太、一緒に寝よ。くっついて寝たい」
「……しょうがねえから寝てやる」


ダメもとでお願いしたら、顔を赤くして頷いてくれた。ひとつの布団にくるまって、うつしちゃだめだからとおでこにキスをしたら、背中を向けられてしまった。

でも知ってるよ、俺が眠る寸前に此方を向いて、おでこにキスをして「早く治してね」って言ってくれたこと。不器用な魔法の力で、翌朝にはほとんどよくなったんだ。恥ずかしがるだろうから、起きてたことは内緒にしておくね。


fin.

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