慎 ページ11
それから数日後。
慎さんという王子が来た。
生憎の雨で、私の部屋でのんびりとお話することに。
ソファーに並んで紅茶を飲む。
『僕の国はビジネスが盛んです。』
「内容的にはどのような?」
『主にAI関連です。』
「人工知能かぁ。すごいですね。」
慎さんは、見た目じゃ人間だけど。
「ちょっと失礼します…。」
首を触ると冷たい。
血が流れているようには思えない。
『お気付きでしたか。さすがAさん。』
「慎さんは…。」
『はい。サイボーグです。』
袖を捲りあげて腕の関節を見せてくれた。
隠れたところに機械っぽさがあるのか。
顔はきっと本物の人間のまま。
完全な機械、アンドロイドではないんだ。
紅茶にも口をつけてたし、食事は普通なんだろうな…。
『自分の体を機械と融合させて、研究しているんです。』
「かっこいいですね。」
『そう言われると嬉しいです。』
で、問題は。
「言いづらいのですが。その…。」
『吸血ですよね。』
「はい。」
どこから吸えばいいんだろう。
『僕の言う通りにしてくれますか?』
「…。」
この時、岩谷さんの事を思い出した。
今回は、大丈夫だよね?
慎さん真面目そうだし。
うーん、岩谷さんも真面目そうとは思ってたんだけどなぁ…。
信用しないのは、それこそ失礼だよね。
「はい。お願いします。」
『では。』
肩を抱かれて、慎さんに少し凭れ掛かる体勢になった。
視線を上げるとすぐそばに慎さんの顔がある。
『目、閉じてください。』
「はい。」
『口を開けて…、舌を出して。そのままじっとしててください。』
「ん…。」
やがて口に流れ込んできた冷えた液体は血ではなかった。
でも、空腹は満たされる。
不思議だった。
『お口に合うかどうか…。』
「美味しいです。」
身体が離れて目を開けると、慎さんがハンカチで口を拭いていた。
「口移しだったんですね。」
直接じゃないけど。
『はい。初対面の女性に口付けるのは申し訳ないので。』
配慮してくれたんだ!
初めて、良い人が現れた…!
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作者名:If | 作成日時:2022年8月7日 8時