#113 ページ7
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『じゃ、私帰るね〜。またね』
「うん。また、」
玄関のドアが閉まって、カチャりと鍵の閉まる音がした。足音が遠くなって、消える。
久しぶりに録音でもしようか。
準備にとりかかり、前々から歌いたいと思っていた曲の音源を流す。ぬゆりさんの『命ばっかり』。
イントロが終わり、いざ歌おうとすると…
「…っ、」
喉につっかえて言葉が出なかった。はくはくと餌を待ち構える鯉のように口が開閉するだけ。
……歌えない？
「どうして」
大丈夫。ちゃんと歌えるはず。
もう一度音源を流して、歌詞の冒頭部分を歌う。今度はちゃんと声が出た。
「意味わかんな…」
さっきのは何だったのだろうか。
理由がわかるはずはなく、そのまま気にも留めずにそのまま歌の録音を終わらせた。
とはいえ、また声が出なくなってしまうのは困るのでまふまふに相談をしてみる。
暇だったのか既読がすぐについて、音を立てながら三つほどメッセージが返ってきた。
＞＞僕は医療の知識なんて一切ありませんが…
[14:07]
＞＞もしかしたらストレス性かもしれませんね。
[14:07]
＞＞何か心当たりは？
[14:08]
心当たり、か。
決して無いわけではない。
それは…リスナーによる有害行為。
まふまふも何度かあったようで、2人で相談して、法的処置を下せられる場合は弁護士に相談したりしているがそれでもまだまだ増え続けている。
中高生のリスナーが増えてしまったのもあり、民度が低いとよく言われるようになった。周りの人から叱責されることも増えた。
全員がそうじゃない、とリスナーさんからも言われたし、俺だって知ってる。…そんなことはわかっている。だけど、やっぱり目立ってしまうのは、悪いことをする人達ばかりだ。
特に生放送。
コメント欄でのリスナー同士の喧嘩が見受けられるようになった。
注意をしても、直らないことがほとんど。
どうすればいいと思う？
そう打ち込んだ。
既読がついて、まふまふから返ってきたものはあまり解決策と言えるものではなかった。
まふまふも自分の仕事で余裕がないから、しょうがないのかもしれない。
鉛のようなため息が口からこぼれた。
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