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横浜を満喫し終えたのは、夜の街がイルミネーションで輝きだす頃で。
遠くに見える観覧車がきれいで、思わず歩みを止めた。
「…楽しかった」
『もう帰らなきゃね』
「帰りは俺が運転するよ。梓、疲れたでしょ?」
『うん、お願いします』
後ろの座席に買ったものを置いて、助手席に乗ろうとすると先に待っていた彼方がドアを開けてくれた。
くすりと笑ってしまうと、早く乗ってよと少しむくれた。
車が走りだすと同時に輝く街が後ろへ流れていく。彼方の横顔はまっすぐ前を向いていて、視線が交わることはない。
「俺さ、」
前を見据えながら、彼方は静かに話し出した。
「やっぱり、怖いんだよね。歌い手をやっていくの。見てくれる人が増えて嬉しいけど、その分俺を悪く思う人が増えてくるし…やっぱり、梓のことも、バレる時が来る。」
『そうだね』
「心配になって、不安になって、梓を疎ましく思っちゃって。俺の苦悩とかなにも知らないくせにって思った。…俺が言わなかったから、当たり前なのに」
『彼方はなんでも抱え込むから。次からはちゃんと、教えてよね』
「うん、ごめん。約束する」
彼方は前を向きながら苦笑した。
それからずっと話をした。これからのことや、活動のこと。彼方は、しばらくゆっくり過ごすらしい。
『あのね、彼方。私から一つ提案があるの』
「何?」
『…
「でも、」
『彼方の心配もわかるよ。きっと報告したら、批判がくるかもしれないし、落ち着いて過ごすこともできないかもしれない。…でも、嘘をついたり隠したりするのは失礼な気がするんだ。』
「まあ、そうだけど……」
『彼方のリスナーさんだよ?みんな喜んでくれるはず。その報告を待ってくれている人もいるよ。……私は、大丈夫だから。リスナーさんと向き合って、前に進もう?』
「…うん、わかった」
少し震え始めた彼方の手に触れた。
彼方が怖い気持ちもわかる。…過去にそれが心配で私に別れを告げたほどだ。
しょうがない。
でも、その恐怖を取り除いてあげるのが私の役目だから。ずっと側にいると約束したから。
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こん - 無理しない程度に頑張ってください!応援してます! (2018年10月9日 18時) (レス) id: bc3ee8c138 (このIDを非表示/違反報告)
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