#103 ページ29
〜そらるside〜
ライブ後の打ち合わせが終わって控え室に戻れば、梓は机に突っ伏して眠っていた。
そのまま寝かしてあげたほうがいい気もしたが、きっと起こさなかったら後で「なんで起こしてくれなかったの」と言われそうで。
すこしふくれっ面になる梓も見たいけど、なんだかんだ俺も梓と話したいし。
優しく、肩を数回叩いた。
「梓、ただいま」
ピクリと肩が揺れて、
焦点の合ってない梓の目が、だんだんと澄んでいき、最後に俺を映した。
「ふふ。置いていかれたから、ふて寝してたの？」
俺がそう言うと、梓はまだ眠いのか目を数回こすって、ふにゃりと笑った。
『そんな子供っぽいことしないよ〜。昨日、よく眠れてなくて…』
「そうなの？…開演までまあまあ時間あるし、寝てて大丈夫だよ」
『ん。ありがとう』
梓はもう一度机に突っ伏して、そのまま小さく寝息をたて始めた。
栗色の髪に触れて、そっと指を通す。ふんわりとカールされた髪の毛はライトにあてられて煌めいた。
「あ、そらっさんいた」
「…インフォ。梓のこと迎えにいってくれてありがとう」
「どういたしまして。…あのさ、」
インフォは何かを言おうとして口を開いたけど、すぐに閉じてしまった。
「やっぱなんでもない。今日のライブ、成功させてよ？あと…」
「わかってる。」
インフォの目は嬉しそうに細められた。
そして梓を一瞥して、「幸せにね」と呟く。
なんだかんだインフォも梓のことを気に入っているようだ。
「梓さんが起きるまで2人っきりにしてあげる。」
「いいよ別に」
「バンドメンバーがいると騒がしくしちゃうでしょ？そらっさんもいろいろと思うことあるだろうし」
「あはは、ありがとう」
じゃあね、とインフォは控え室を出ていく。
さっきからバンドメンバーが帰ってこないと思っていたらインフォが配慮してくれていたからだったのか。
席を立って、自分の鞄をあさる。留紺色の小さな箱を取り出して、そっと開いた。
もう引き返すことはできない。
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