【不知火一樹】ふりむいて不知火 part7【Starry☆Sky】 (ページ10)

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ストーリー 294 一樹ページ10

一樹「一緒にすんな。
で、俺に何か用だったんじゃないのか？」

俺の言葉で、袋の中のダミーチョコを
覗き込んでいた桜士郎が顔を上げる。

桜士郎「あ、そうそう。一樹に迷子の迷子の
チョコちゃんを届けに来たんだ」

そう言って桜士郎が差し出したのは
さっき俺がもらい損ねた袋。

一樹「……俺のじゃない」

桜士郎「お前のだよ。一樹、お前のだ。
このチョコちゃんに込められてる気持ちも
全部、全部、お前のものだよ。

確かにお届けしました！
じゃ、このダミーはもらってくから。
このチョコと、ダミーの交換」

一樹「でもな……これは……」

桜士郎「いいじゃん。Aちゃんは
受け取ってくれなかったって
思ってるんだから」

桜士郎の言葉に、俺は何も言い返せなくなる。
こいつは、こんなナリをしてるが
意外に鋭い。

桜士郎「ふっ、本当は欲しいくせに。
つくづくお前は難儀な奴だよ。
ほら、チョコちゃん大事にしてもらうんだよ」

桜士郎はそんな台詞と、俺の膝の上に
袋を残してさっさと去って行く。

桜士郎「あ、一樹。
ア・ハッピーバレンタイン」

一樹「ふっ……腹壊すなよ」

桜士郎「はっはー、俺の食欲なめんな！
今日中に食べて明日は俺の身体から
香しいチョコの香りがするんだ。
学園中に甘い香りを撒き散らしてやるからな。

それじゃ、あばよーーーー！」

一樹「結局俺の手元に来たか……」

箱を開けると、小さなチョコが4粒入っていて、
小袋の中にはパウンドケーキが2つ。
箱の上にカードが乗っていて、俺はそっと開く。

『不知火へ
日頃の感謝です。
本命チョコじゃありません。
受け取ってくれてありがとう』

一樹「ふっ、さっき本命って言ってたよな。
……A本当、嘘つけないよな」

俺はメッセージカードを何度も読んで
チョコを1粒、大事に取り出す。

一樹「いただきます。……ふっ……甘っ。
……ハッピーとは言えないけど、桜士郎には感謝だな。
……もったいなくて全部食えないかも」

窓の外を見ると、
空には小さな星が輝いていた。

一樹「こんな形でしか受け取れなくて……ごめんな」

あいつにとっては苦いバレンタインに
なってしまったかもしれない。だけど……
俺には少しだけ甘いバレンタインだった。