イロトリドリ【短編集】

小野大輔【君の声】 ページ36

ドンッ……

一人の男が、女の子にぶつかって、女の子が、駅のホームで尻餅を付いた。


男は、人混みの中へ、紛れて行った。


周りの奴等は、

" 酷い、謝りもしなかったわよ。"


" かわいそー "


ヒソヒソと声を潜めて、呟いている。


ったく、そんな事言ってる暇があったら、女の子に、手ぐらい、貸してあげろっての。


そう思いつつも、女の子に手を差し出す。

一瞬、

" え？ "

という顔をしたが、俺の手を、ちゃんと握ってきた。


「大丈夫？…怪我とか、してない？」

コクリと頷く。


ん？スマホを取り出して…


【ありがとうございます。怪我、してないです。ご迷惑をおかけしました。】


丁寧な文が、目の前に映しだされる。

「ぷっ……セルティ、みたいだね。」


【あ……声が出ないので……】


「え？」


【喋りたくても、声が出ないんですよ。ふふっ……可笑しな話ですよね。】


「え……あぁ、そ、そうなんだ…。」


【でも、とっても嬉しいです。声優の小野さんが、目の前にいるから。】


「え？あ、俺の事、知ってるんだ。」


【はい、一応、声優目指してましたから。】

その文章を打ったあとの、君の顔は、すごく悲しそうで…。


【あ…水原Aです。よろしくお願いします。】


「うん、こちらこそ。」


「困ったら、これに連絡して？」

今、急いで書いた、電話番号とメアドの紙を渡す。字は汚いが、気にしないでおこう。


【いいんですか！？】

と聞いてくる君に、" いいよ " と答えたら

【あ……ありがとうございます！！】

満面の笑みが、目の前にあった。




(おーい、小野くん……その顔、気持ち悪いよ。)


(へっ？え？変な顔してました？)


(ケータイみて、ニヤニヤしてたよ。)

小林裕介【家庭教師】→←前野智昭【日が変わる前に】

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