祭りの後 壱 ページ10
「おい！」
突然かけられた声に、口をゆすいでいたAは振り向く。
神出鬼没の暇人宦官がそこにいた。
宴席からずいぶん離れた場所にいるのによく見つけたものだ。
「ごきげんよう、壬氏さま」
いつもどおり無表情で返そうとするが、毒の余韻か幾分頬がゆるい。
笑顔で返したようで少し腹立たしい。
「随分元気な毒見役だな、むしろご機嫌はそっちだろ」
いきなり腕を掴まれる。
「なにするのですか」
「医局にきまってるだろ。毒食らってぴんぴんしているなんて洒落にならないぞ」
実際、元気そのものである。
吐き出さずに飲み込んでいたら。
好奇心が身体をめぐる。
今頃、しびれが体をめぐっていることだろう、吐き出さなきゃよかった。
引っ張られながら、Aは壬氏を見上げた。普段、無駄にきらきらしい壬氏だが、今は甘露の声は幾分かすれ、柔和な笑みもそこにはない。
(きらきらしいのは調整できるのか)
いや、少し襟元が乱れている。乱れることがあったのか。なるほど、この不埒ものめ。
情事のあとで、疲弊しているのだろうか。
宴席にいなかったのは、女官か文官か武官か宦官を連れ込んだり、連れ込まれたりしていたのだろう。
そういうことにしておこう。
まったくお盛んなことである。
(こちらのほうがまだいいな)
確かに美形であるが、これなら年相応の青年に見えなくもない。いや、むしろ幾分幼く見える。
今度から来る前は、いかがわしい運動のあとにしてもらえるよう高順に頼んでおくか。
「おまえがあんまり元気そうに出ていくもんだから、ほんとに毒かって食べた奴がいたんだよ」
「誰ですか、その莫迦は」
毒味が意味をなしていない。
「大臣がしびれてる。あっちはそれで大騒ぎだ」
なるほど、これでは国の未来も危ないことだ。
「なら私のような者でなくそちらに行かれてはいかがです」
皮肉をこめて言ってみる。が、壬氏はそれに乗らず、
「莫迦、お前の方が先だろう！」
焦ったような、真剣な顔で返した。
「私は大丈夫ですよ、この通り元気ですし、いざとなればこれがあります」
胸元からごそごそと布袋を取り出す。
「胃がひっくり返るほど、よく吐けるように作ったので」
呆れる壬氏。
Aはふと思い出し、足を止めた。
「どうした？」
「お願いがあります。一緒に連れてきてもらいたい方がいらっしゃるのですが」
「だれなんだ？一体」
眉をひそめ、首を傾げる。
「徳妃、里樹さまです」
Aは凛とした口調で言った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 137人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
