玖 ページ9
貴妃の毒見役、華奢な侍女は周りを一瞥もせず、銀杯を揺らして食前酒を口に含む。
そしてゆっくり嚥下すると、何事もなかったかのように口をゆすいだ。
どこかで見たことがあると思ったら、先ほど簪を渡したひとりだった。
紫水晶のように透き通った瞳は非常に珍しく美しい、それ以外はさほど目立つ容貌でないが整ってはいる。美形の多い後宮の中では上の中といったところだろうが、愛想が良ければ毒味役などではなく、妃にだって当然なれるだろう。
ただ、その無表情のどこかに、他人を威圧する眼力を持つ、そんな意味では目を惹かれる娘だった。
美人なのに愛想のない娘だと思ったが、表情は案外豊からしい。
無表情と思えば、なぜかいきなりにこにこして、かと思えば元に戻り、今度は不機嫌な顔をする。
それなのに、当たり前のように毒見をするので、これはどうにもおかしかった。
次はどんな顔をするやら。暇つぶしにはちょうどいい。
羹を差し出され、娘が匙をいれる。目視し、舌の上にゆっくりのせる。
娘の目が一瞬、見開いたかと思えば、急にとろんと蕩けるような笑みを浮かべた。
頬に赤みがさし、目が潤み始める。唇が弧を描き、半開きになった口から白い歯と艶めかしい舌が見えた。
李白の胸がどきりと高鳴る。
周りの高官たちからもどよめきが上がる。
これだから女は恐ろしい。
唇についたしずくを舐めとるさまは、元の美しさも相まって、熟れた果実のような最高級の妓女の笑みであった。
どれだけ美味い料理なんだ。
娘をあれだけ妖艶にするなにかがあるのだろうか、宮廷料理人の匠の技によるものか。
ごくり、と生唾を飲んだ時、娘は信じられない行動にでた。
懐から手ぬぐいを取り出し、口につけると食べたものを吐き出したのだ。
「これ、毒です」
無表情に戻った侍女は、業務事項を伝えると幕の裏側に消えていった。
宴席はどよめきをみせながら終わりを告げた。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
