陸 ページ6
Aはどうやら男を窮地に立たせているのが自分だと気付いたらしい。
「どうも」
Aが受け取ると、子犬が飼い主にほめられたような顔をした。
なんとなく駄犬っぽいとAは思う。
「じゃあな、よろしく。俺、李白っていうから」
(たぶん、二度と会わないと思うけれど)
手を振る大型犬の帯にはまだ十数本の簪がさしてある。
侍女たちに恥をかかせないため、皆に配っているのだろうか。
(それならば悪いことをした)
桃色珊瑚のついた簪をながめる。
かなりいい細工だ。気前がいい。
「お嬢さん...こちらも」
声をかけられ、見ると頬をほんのり染めた若い男。
「ありがとうございます」
「良ければ、これも」
「どうも」
「これも」
「ええ、ありがとうございます」
いつのまにか少しずつ男たちが集まってきている。
(この姿でも駄目なの？)
Aは心の中でため息をつく。
「...ありがとうございます、ですがそろそろ私はこれで」
こういう時は、早めに退散するのが吉だ。
Aは、わらわらと集まってきた男たちを置いて逃げ出した。
玉葉妃のところに戻ると、
「あら、やっぱりいっぱいもらったの？」
と、貴園たちが来た。各々戦利品を帯にさしている。
「ええ、まあ」
Aは感慨もなく答える。
すると、後ろから、
「それだけでは、さみしいでしょう？」
聞き覚えのある高貴な声がする。
振り返ると、豊満な胸部、もとい梨花妃が立っていた。
(少し太ったかな)
それでも、以前の肉体には及ばない。しかし、残った陰りもまた妃の美貌を引き立てていた。濃紺の裳に空色の上着、青い肩掛けを羽織っている。
(少し寒くはないだろうか)
玉葉妃付である限り、梨花妃には肩入れができない。
水晶宮を去った後も壬氏伝手にしか、容体をきいたことがなかった。
たとえ、宮を訪れても侍女たちに門前払いを食らうのはわかっているが。
「お久しゅうございます」
「お久しぶりね」
顔を上げると、「まあ、綺麗ね」と言いながら、梨花妃はAのなめらかな黒髪をさわる。
また、壬氏のときと同じように何かがささった。
今度は痛くない。
「じゃあ、ごきげんよう」
驚愕を隠しきれない妃付の侍女たちをたしなめながら、優雅に去って行った。
呆気にとられるのは翡翠宮の侍女たちである。
「あーあ。これは玉葉さま、すねるどころじゃないかもね」
桜花が呆れた顔で簪の飾り部分をはじいた。
紅水晶の玉飾りが三つ連なり揺れていた。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
