拾伍 ページ49
「あの日、私は自死しようとしたの。里樹妃暗殺に失敗して、それで阿多さまに疑いがかかりかねないと思って。
それが珊児に見つかって、問い詰められたから正直に答えたの。
そうしたら、あの子、なんて言ったと思う？」
「...わかりません」
風明は自嘲の笑みを浮かべる。
「...『それなら、私が死にます』って。下女だから、他に累が及ぶことはないからって。
侍女頭の私とは違って」
(確かに、妃に責が及ばないとは言い切れない)
Aはうなずく。
「どうしてそこまでするのか、もちろん聞いたわ。
名前を覚えてくれていた上に優しくしてくださった阿多さまを守りたいと、そう言っていた。
あの子は尚食だったから、お皿を運んでいたところを落としてしまって。
かき集めていたところを、通りすがった阿多さまが手伝って、日頃のお礼を伝えられたそうよ」
妃、それも上級妃が下女などと口をかわすことなど早々ない。
名前を呼ばれ、感謝の言葉をいただいた彼女は、まさしく天にも昇る思いだったろう。
「一人だと怖くて死ねそうにないって、手伝いを頼まれたわ。
...臆病な子。最後まで震えていた。そんな子でも、阿多さまのためなら、命を投げ出す」
風明は膝から崩れ落ちる。
「そんな方の大事なものを、私が奪った。
珊児の死も、無駄にしてしまった」
目から、とめどなく涙があふれる。
(わからない)
誰かをそこまで想う心も。そんな人が、いったい何を望むかも。
Aが報告すれば、壬氏は風明をとらえるだろう。
極刑はまぬがれない。
それでも、
(『陽の下に晒さないほうがいいんだよ』って、こういうことよね、とうさん)
Aにできるのは、ひとつだけ。
減刑を望むことでも、阿多妃の処遇に言することでもない。
二つあった動機をひとつにすることだけ。
十七年前の赤子の死因を暴いたところで、傷つく人が増えるだけだ。
「風明さま」
風明が顔を上げる。充血した目が、温かい紫色の瞳をとらえる。
Aは膝をつき、目線を合わせて言った。
「結果は変わりません。それでもよろしければ」
提案にのっていただけませんか、と。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
