拾参 ページ47
「知られたくなかったんですね。阿多妃には」
自分が主の唯一の子を殺した原因だと。
「だから、里樹妃を消そうと考えた」
里樹妃は先帝時代、年上の嫁である阿多妃になついていた。
阿多妃も、里樹妃のことをかわいがっていたという。
親元から離れた幼い娘と、子を持つことのできない女性。一種の共依存が生まれていた。
しかし、ある日突然、里樹妃は阿多妃に拒絶される。何度会いに来ても、風明に追い出されるからだ。
そのまま、先帝は崩御し、里樹妃は出家する。
「里樹妃は貴方に、蜂蜜には毒があることを教えたのでしょうね」
もし里樹妃が通い続ければ、そのことを話すかもしれない。
聡い阿多妃はその言葉で、なにかに気付くかもしれない。
それだけは避けたかったのだろう。
「...先帝のご趣味は知ってるかしら？」
風明はぽつりと話し出した。
Aは頷く。
前に、壬氏に聞いたことがある。幼女趣味で、今の皇帝が生まれた時も、母体の腹をさくしかなかったと。
「阿多さまは、まだ幼い里樹さまのもとへ先帝が通わぬよう、守ってもいたのよ？
侍女にすら馬鹿にされている世間知らずの小娘のために」
風明の表情はよく読み取れない。
「...あなたは、毒を入手するため、外部の者とひそかにやり取りをした。
木簡を燃やした炎の色を暗号にして」
そこでいったん言葉を切る。
Aは風明の腕に目をやる。
「その腕のやけどは、その際負ったものですよね？」
さっと、風明が腕を隠す。図星らしい。
「あなたは毒殺が未遂に終わるとその罪を下女に着せ、自死に見せかけて殺した。
彼女は纏足をしていたので一人で道具もなしにあの塀を上ることは不可能でした。
けれど梯子はかかっていなかった。誰かが外したはずです」
ゆっくりと、しかしはっきりと、Aはそう言う。
風明の光のない目を見据えながら。
「そう、それで...
欲しいものは何？」
Aはちらりと卓子の上を見た。
先のとがった簪と、麺麭を切ったであろう包丁。
冷汗が額を伝う。
「何が望み？言ってごらんなさい。なんでもいいのよ」
風明が一歩前に出た。Aはじり、と後ろに下がる。
「...そんなこと意味がないと、風明さまご自身もわかっておられるでしょう？」
その言葉に風明はぴたりと足を止め、目をふせた。
「あなた＿＿＿自分の一番大切な人の、一番大切なものって、なにかわかる？」
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
