玖 ページ43
「ちょっとあなた！」
先日の茶会で、蜂蜜嫌いの主をかばおうともしなかった侍女のひとりがすごい剣幕でAを止める。
「失礼じゃなくて。いきなり来て、里樹さまにずけずけと」
(ああ、こうやって、味方のふりをしてるのね)
時折、外部のものを悪役にしたてあげ、里樹妃の味方のふりをする。世間知らずな幼い妃は、周りの人間を敵だと思い込む。味方は自分たちだけだと言い聞かせ、妃を孤立させる。
妃は侍女たちに頼らざるをえない、悪循環である。
「宜しいのですよ里樹さま、真面目にお答えにならなくても」
「ええ、他の宮の侍女なのですから」
口々に侍女が言い出す。
本人がいじめだと気付いていなければ、なかなか表沙汰にはなるまい。園遊会のときは、調子に乗り過ぎたようだが。
「私は壬氏さまの命を受けてここにきております。なにか問題がありますか」
文句があるなら壬氏さまへ、と付け加える。
虎の威を借るついでに面倒もつけておこう。
それくらいやってもいいはずだ。
顔を火照らせた侍女たちが、何を理由に変態宦官に近づこうとするのか楽しみである。
「もうひとつ」
Aは無表情のまま、里樹妃に視線を戻す。
「柘榴宮の侍女頭と、以前から面識はありますか？」
驚いた顔がその答えを示していた。
「探してきてもらいたいものがあります」
Aに頼まれ、高順は宮廷の書庫にいた。
後宮女官であるAは、基本、後宮内を出ることはできない。
はて、なにがわかったのやら。
齢十七には思えぬ知識の深さと冷静さは、目を見張るものがある。
あれだけの美貌を保ちながら、それに頼らず理性的に物事を考え、処理する能力は女子にしておくのが惜しいとさえ思う。もちろんそれは、一部の性癖をのぞけばの話であるが。
大変使いやすい駒。
そのように扱えばよいものを。
本人も、いやいやながら了承することだろうに。
「悪いことをした」
ぽつりとこぼす。
主の過ぎた悪戯はやはり止めるべきだったろうか。
止めたところでどうなったか。
恨みがましいAの目を思い出すと、今後、なにか盛られるかもしれないという不安がよぎってきた。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
