捌 ページ42
「A、壬氏さまも、つい悪戯が過ぎただけですので、許してあげてはいかがでしょう？」
里樹妃の住まう金剛宮を案内するのは、高順である。彼の主は、さきほどの件について、翡翠宮にて玉葉妃たちにこってり絞られているはずだ。
「わかりました。では、今後は、高順さまが舐れば問題ないかと」
「ね、舐る……」
Aは顔をそらし、口を尖らせたまま、つかつかと歩いていく。
まったくもって変態である。顔が良いだけにたちが悪い。
ああやって何人も誑し込んでいるに違いない。
破廉恥極まりない。
お偉方でなければ、妓楼の迷惑客と同じ対応をとってやるのに。もっとも、ないものは蹴ってもしかたないのだが。
そうこうしているうちに、南天の植えられた真新しい宮に到着した。
里樹妃は、桜色の衣を着、柔らかい髪を花簪でまとめている。
園遊会のときの豪奢な衣装よりも、このような可憐な衣装のほうがよく似合うとAは思った。
玉葉妃がのりこんできた後、Aは気になることを明らかにするために、里樹妃との面会を頼んだのだ。
里樹妃は、壬氏がいないことに気付くと明らかに落胆の色を見せる。
見かけだけはよいのだから、仕方ない。
「翡翠宮の侍女が来るって報せ、あなただったの。私に聞きたいことって、なにかしら」
扇子で口元を覆い、長椅子にゆったりと座っているが、そこに他の妃にあるような威厳はない。どこかおどおどした、まだ幼い妃である。
美姫と謳われるだけの美しさはあるが、女の色香はまだ纏っていない。
背後にはお付の侍女がふたり、やる気なさげに立っている。
「里樹さま、蜂蜜はお嫌いですか？」
なにかしら前口上をつけて話してもよかったが、面倒なので端折る。
「なんでわかるの？」
「以前玉葉さまのお茶会にいらした時、顔にでていましたから」
(みればわかりますよ)
不思議そうな顔が、だんだん膨れていく。本当にわかりやすい。
「昔、蜂蜜でお腹を壊したとか」
さらに里樹妃は顔を膨らます。肯定の意だろう。
「食中毒になって、食べ物を受け付けなくなることは珍しくないですからね」
里樹妃はなにもかも見透かされたことに、不思議さと恥ずかしさをいり混ぜた顔をしている。
「でも...覚えてないの、赤子の頃の話だから」
「...赤子？」
「ええ、蜂蜜を食べて生死の境を彷徨ったって。乳母や侍女からずっと聞かされてて、それで怖くて今でも食べられないの」
里樹妃はおずおずと答えた。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
