伍 ページ39
壬氏がAを柘榴宮に送ったのは、人手不足だけが理由ではない。
そんなのはAもわかっていた。しかし、
(本当に毒殺騒ぎの黒幕がいるの？)
翡翠宮の侍女たちも働き者であるが、柘榴宮の侍女たちも有能だと言わざるを得ない。
皆が皆阿多妃を慕っており、ゆえに行き届いた仕事を行うのである。
(口先だけの水晶宮の侍女に見せてやりたいわ)
どうにも、梨花妃は侍女に恵まれないらしい。彼女の周りに無駄に侍女が多いのは、ひとりひとりの仕事量が少ないことが言える。
(けど、忠誠心が強さは毒殺の理由にもつながる)
四夫人の座を下ろされようとしている理由は、高官が自分の娘を入内させようとしているからだと聞いた。
下ろされるとすれば、阿多妃になるが、他の上級妃の座が空けばどうなるだろう。
里樹妃。妃としての役割を果たしていないのは彼女も同じだ。
まだ、幼い里樹妃にとってもそれが望ましいことだろう。結婚適齢年齢に達しているとはいえ、もし、数え十四で妊娠し、出産となるといくらか身体に負担が大きい。
落とすなら里樹妃を狙うのはおかしい話ではない。
台所の棚を整理しながら、Aは思考をめぐらせていた。
棚には小さな壺がたくさん並んでいた。甘い匂いが鼻につく。
「ああ、それは棚を拭いて元の位置に戻しておいて頂戴」
台所を一緒に掃除していた侍女が言う。
「全部、蜂蜜ですか」
「ええ。風明さまのご実家は養蜂をやっているの」
蜂蜜は贅沢品である。一種類あればいいところを、いくつもそろえてあるのはそういうことか。中身を確かめてみると、琥珀色、赤茶色、褐色と色が違う。とれる花が違うと、味も色も違う。
(はて？)
蜂蜜といえば、なにか引っ掛かるところがある。
ここ最近、聞いたような気がしたが。
「終わったら、二階の欄干拭いて行ってくれない？よく、掃除の子忘れちゃうの」
「わかりました」
Aは蜂蜜を片付けると、雑巾を持って二階に上がった。
(蜂蜜、蜂蜜)
欄干の柱を一本一本丁寧に拭きながら、頭の中を整理する。
(あれ？)
二階から、外はよく見える。隠れたつもりで、柘榴宮をうかがう人物が見える。
(里樹妃？)
毒見の娘を一人だけ連れて、なぜこんなところに来ているのか。
まったく理解できない。
(蜂蜜……)
記憶の中に数日前の茶会がよみがえる。
なぜ、里樹妃は蜂蜜が苦手なのだろう。
ただ、そんなことが妙に気になった。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
