弍 ページ33
Aが連れてこられたのは、いつもの執務室である。
「衛兵の見解としては、投身自死といっているが」
塀を上り、堀に身を投げたのだろうと。
娘はやはり尚食の下女で、昨日まで働いていたらしい。そうなると、昨夜に身を投げたこととなる。
「自死かどうかは置いておいて、少なくとも一人では無理だと思います」
「どういうことだ」
優雅に椅子に座る壬氏は優美な声できいてくる。
先日の妙に慌てた青年とは別人のようである。
「城壁にはしごがありませんでした、鉤縄を使って上れますか？」
「そりゃ無理だろうな」
「別に、道具も使わずに上る方法はあるのですけど、あの女官には無理でしょう」
「なんだ？どんな方法があるんだ？」
以前、幽霊騒ぎの際、Aはずっとどうやって外壁を上っていたのか疑問だった。
気になったらわかるまで追求する性質なので、城壁を丹念にまわってみたのだ。
見つけたのは、外壁四隅にそれぞれある突起である。わざと壁から煉瓦が飛び出しており、それに足をかけると上れる。婆に舞を仕込まれたAだけでなく、舞踏が得意な芙蓉妃も難なく上れたことだろう。
「大抵の女性なら難しいでしょうし、ましてや纏足のものは」
下女の足は包帯で巻きつけられ、小さな木靴を履かされていた。足を潰し、布で閉じ込め、木靴に押し込める。足が小さければより美しいという基準のもと、その行為はおこなわれる。
「他殺だというのか？」
「それはなんとも」
赤く血に染まった指は、何度も堀の壁をかいたに違いない。
冷たい水の中、考えたくもないことだ。
あの下女は冬の冷たい堀に落ちながら、何を考えていただろう。
もっと生きていたかったという切望だろうか。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
