弍 ページ29
「身請けしたくともできない男と、妓女の心中は確かによくある話よね。でも、あの男は仕立てのいい服を着ていたし、悲観して死ぬようには見えなかった」
倒れていた女も、この花街で名の知れ渡るような妓女ではない。あの男ほどの余裕があるなら、身請けくらいできるだろうに。
「それに、ほかの妓女たちの話では、なかなか問題がありそうな客だったわ。
あれは妓女が」
毒を、と言いかけたAをおやじどのが手で制す。
「A。妓楼も後宮と同じだよ、明らかにしない方がいいこともある。
煌びやかで美しい花園。その底には
Aは机の上で腕を組み、そこに顔をうずめながら、「うん、わかった」と答えるしかなかった。
きっと、あの男は毎度の如く妓女に身請け話をちらつかせた。
その約束も反故にされ、妓女は男を殺すことにした。
だが毒を盛ろうにも男は過去の経験から警戒していただろう。
あの部屋にあった酒器は一つ。最初に女が飲んで見せた。
落ちていた麦稈、あれを
器には毒と酒が入れられていた。水と油のようまではいかなくとも、二層に分けることはできる。
毒の方が酒より軽ければ、酒は底に沈む。
女は吸管を深く刺し、底の無毒な酒だけを飲み、男は毒ごと飲んだ。
そして___
「A」
Aの思考を遮るように、おやじどのが声をかける。
Aは顔を上げる。おやじどのはやさしい顔でこちらをみている。
「いつまでここにいられるんだい？」
「明後日までかな。三日間だから...」
「... そうか。
後宮か、因果なものだねえ」
おやじどのの言葉は、朝焼けと共に静かに消えていった。
三日間の里帰りはあっというまに過ぎていった。
懐かしい顔ぶれにあい、ずっとこのままいたい気持ちも強かったが、後宮の仕事を放棄するわけもいかない。
また、身元引受人の李白に迷惑がかかるので帰らないわけにもいかない。
(いい夢みれたみたいね)
やたらつやつやしている白鈴小姐と、眼尻が下がりはちみつに漬けた杏のようになった李白を見ると、過剰に報酬を払い過ぎたと後悔した。
まあ、一度、天上の甘露を知った李白には、地上のそれが口に合わなくなることに多少は同情した。
きっとやり手婆は、生かさず殺さず搾り取ることだろう。
そこまでは、Aに責任はない。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
