麦稈 壱 ページ28
「かはッ...」
男が息を吹き返した。
げえっ、と荒くひどい吐瀉物混じりの息をする。
「とうさん、そっちは？」
男の背中をさすりながら、Aは尋ねる。
「こっちは軽症だ、意識もある」
小姐、そう叫んで駆け寄るさきほどの娘。禿なのだろうか。
Aはあたりを見回す。
(毒は何？何が使われたの？)
卓に置いてある手頃な大きさの容器に目をつける。
(これ___)
Aは蓋を開ける。煙草だ。
噛み煙草といって、火を使わず、葉を丸めてそのまま口に含む最古の煙草である。直接口に含む分、烟癮たばこ叩�任硫椎柔�が高くなる。
叩�脳評�が出たら、粉末状の粉末状の炭を飲ませて炭に毒を吸着させ、体外に排出させる。
「炭を___」
持ってきて、と言いかけたAをおやじどのが手で制す。
「いや、水だ。大量に持っておいで」
「とうさん」
「よく見てごらん、A。噛み煙草はあるが、吐瀉物の中に葉は混じってない。
だとしたらどこに毒が入っていると思う？」
Aはまたあたりを見回した。
「...酒？」
噛み煙草が置いてあったのと同じ卓に、酒の瓶と杯、そして
「ああ、水に溶かして飲んだ毒なら水を飲ませて薄めたほうがいい。
A、目の前の可能性に飛びつくのは危ないよ。憶測と思い込みは目を曇らせる」
Aは黙って聞いていた。
そのうち水を持ってきた禿がおやじどのの指示に従って男と妓女に水を飲ませる。
(やっぱり、とうさんはすごい)
処置を施すおやじどのを見ながら、Aがそう考えていると。
「...死ねばよかったのに」
ぼそりと、そんな声が聞こえた。
おそらく集まっていた妓女たちの声だろうというのは想像できた。
「あいつ、他の店でも騒ぎ起こしてたでしょ？」
「あの時は毒を盛られたんだよ、身請けするとか何人もの女に言ってたって。
あんなやつ、出入り禁止にすりゃ良いのに」
小姐が可哀そう。
光もないのに、Aの紫色の瞳がゆらめいた。
「せっかく帰ってきたのに、なんだったねえ」
家に帰る頃には、もう夜がうっすらと明るくなっていた。
「まあ二人とも助かってよかった。心中騒ぎは日常茶飯事だけどねえ」
Aは頭巾を脱いだ。
紫色の美しい瞳が揺れ動く。
「ねえ、とうさん。あれ、本当に心中なのかな」
Aがぽつりと言った。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
