肆 ページ27
薬草と芋でかさ増しした粥を夕餉にとると、服も着替えず化粧だけ落としてそのまま眠ることにした。風呂は明日、緑青館でもらい湯でもしよう。
Aは土間に菰を敷いただけの簡素な寝床に丸くなった。
おやじどのは猫のように丸まったAの上から着物を重ねてやって布団とし、竈の火を絶やさぬようにすり鉢をすっていた。
「ごめんね、三日間の里帰りだなんて養父孝行にもならないけど」
ぽつりとAはこぼす。
「いいや。よく帰ってきたね、A」
染み渡るようなおやじどのの声にAはぎゅっと着物を抱きしめるのだった。
「薬屋！助けて、急患だ！」
Aは扉をどんどんと強く叩く音で目を覚ました。
同じように目を覚ましたおやじどのが扉を開ける。
立っていたのはAと同じくらいの年齢の娘だった。
「緑青館のもんじゃないね、どこの子だい？」
「とにかく、ついてきて！」
ただ事ではない。Aは顔を隠すための頭巾を引っ掴んで被り、おやじどのと共に寝巻きのまま家を飛び出した。
「小姐、薬屋連れてきた！」
連れられてきた部屋では、妓女が何人か集まっておろおろし、一つの寝台を囲んでいる。
Aとおやじどのが駆け込むと、妓女たちは脇にのいて道を開けた。
頭巾を被って顔の見えないAは見るからに怪しいが、それでも訝しまれないのは、薬師の娘は「顔に酷いあばたとやけどのあとがある」との理由で頭巾を被っている、ということになっているからだ。
寝台には一組の男女。
男の方からは吐瀉物が流れ出ている。
「これは___」
(心中かしら)
Aは寝台に近づく。そして、男の息がないことに気づく。
急いで頭巾を少したくし上げ、Aは大きく息を吸うと男の唇と自身のそれを重ね合わせた。
男の鼻をつまみ、大きく息を吹き込む。男の胸の位置が上がるのを確認してから、口を離す。自然に息が吐き出されるのを待って、もう一度息を吹き込む。離す。胸骨を数十回圧迫する。また口付け、息を吹き込む。これを何度も繰り返す。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 137人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
