参 ページ26
「A」
しわがれた声の主は、恐ろしい笑みを浮かべている。
「十月も連絡よこさず消えやがって」
「しかたないでしょう、後宮で働いてたんだから」
木簡にしたためて、大体の説明はしてある。
「一見お断りのところを、こんだけ面倒見てやったんだ」
「わかってるわ」
懐から袋を取り出す。
今まで後宮で働いた給金の半分だ。
「こんだけじゃあ、足りないねえ」
「まさか、白鈴小姐だすとは思わないわよ」
上級妓女なら一晩いい夢を見ておつりがくるはずだった。
李白とて、ひとめでも三姫に会えたらそれで満足しただろう。
「お茶位ならぎりぎり負けてくれない？」
「莫迦。あの腕っぷしで白鈴が何もしないわけないだろ」
最上級の妓女は身を売らないというが、欲がないわけではない。
「それって不可抗力……」
「なわけあるかい。ちゃんと勘定に入れとくからね」
「払えないって」
(残りをいれても足りないなあ。どう考えても)
考え込むA。
「なあに、最悪、店に入ってもらうだけさ。なんなら短期就労でもいい。お前なら、窓辺から顔覗かすだけで客はほいほいやってくるだろ」
「年季まだ一年残ってるのだけど」
「なら、上客どんどんよこしな。さっきみたいな長く適度に搾り取れそうなのをさ」
(うーむ。やっぱり搾り取られるか)
強欲婆は算段しか頭にない。今後、生贄を適度に送らなければならなくなった。
(宦官でも客になるのかな)
壬氏の顔が浮かんだが、あれはだめである。
妓女が本気になり、店がつぶれかねないので却下である。
出会いの場がないというのは、本当に不便なものだ。
「A、爺はいま家にいるはずだから、さっさといってやんな」
「ええ」
深く考えても今のところ納得のいく解決策はない。
Aは緑青館の脇道を抜ける。
通りを一つ抜けると、花街はとたんにさびしいものとなる。
掘立小屋が立ち並び、割れた茶碗に銭がたまるのを待つ物乞いや、梅毒のあとが見える夜鷹もいる。
寂れた小屋のひとつがAの家である。
二間の土間しかない狭い家に、背を丸め、すり鉢をするものがいる。
深くしわの刻まれた、柔らかい輪郭をした、まるで老婆のような男である。
「ただいま。とうさん」
「おう、遅かったね」
普段通りの挨拶をし、何事もなかったかのようによろけた足取りで茶を用意する。
使い古された湯飲みに茶を入れるのでそれをいただく。
ぽつぽつと今まであったことを話すと、おやじどのはそれに相槌をうつだけだった。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
