麒麟 ページ20
(憶測はここまでにして)
器を再び手に取り、指をさす。
「これは多分、毒をまぜた者の指のあとでしょう。ふちを押さえて毒を混ぜいれたのかと」
食器のふちに触れてはいけない。やんごとなきかたの唇が触れる場所を指で汚してはならないからだ。
「私の見解は以上です」
高順は顎をさすって銀食器を見ていた。
「ひとつ聞いてよいですか」
「何でしょう？」
食器を包み、高順に渡す。
「なんで、あの侍女をかばおうとしたのですか？」
高順は興味本位です、と付け加える。
Aは俯いた。
「...妃に比べたら侍女の命など軽くたやすいものです」
ましてや、毒見役ならば。
高順は、いわんとしたことがわかったらしく軽く頷く。
「壬氏さまにはうまく説明します」
「ありがとうございます」
高順が退出したのを見送ると、Aは力が抜けたように深く椅子に腰かけた。
「そうねえ、これくらいのお礼はしないとね」
(せっかく取り替えて
やっぱり、飲み込んでおけばよかったなあ、と思いながら。
____________________
「以上で終了です」
高順の報告を聞き、壬氏は髪をかきあげた。
机には書類が重ねられ、判を待っている。
「どう考えても内部犯だよな」
「状況からはそうなります」
頭が痛くなる。
思考を放棄したい。
なにせ、昨日から眠る暇もない。
着替えもできていない。
地団太を踏みたくなる。
「素が出てきていますよ」
今の壬氏に普段の笑顔はなく、年相応に不貞腐れていた。
それが高順にははっきりわかるらしい。
「誰もいないからよくないか？」
「私がいます」
「そこはおまけで」
「だめです」
軽口を聞いてみるが、生真面目なこの男には通用しない。
生まれたときから面倒をみられるのも厄介なものである。
「簪、さしたままです」
「ああ、いけね」
深くささった簪を引き抜くと、匠の透かし細工が現れる。
鹿とも馬とも言い難い伝説の動物は麒麟といった。
「頼むわ、保管」
無造作にそれを投げつける。
「大切にしてください。大事なものなのですから」
「わかってるよ」
「わかってません」
お小言を言い終えると、十六年来の世話役は執務室をあとにした。
壬氏は、子どもの顔のまま、机に突っ伏した。
あの美しい娘の姿がちらりと頭に浮かんだ。
はやく暇を作らねば。
「やるか」
大きく背伸びをして筆をとる。
暇人になるために、仕事を終わらせなければならなかった。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
