弍 ページ14
Aは、翡翠宮に帰ってから手厚い看護を受ける羽目になった。
宮に着くなり桜花たちに化粧を落とされ、体を拭かれ、あれよあれよと着替えさせられる。さらに、形が崩れるからとさらしも解かれ、本来の胸回りに合った胸元のゆるい服を着せられ、完全に素の姿で寝台に寝かされていた。
病み上がりのようなものだから、と桜花たちはAを寝台に放り込むと部屋から出て行ってくれたが、それまではずっとAの容姿に釘付けだったのは別の話だ。
日が落ちた後。Aは嫌なことを思い出していた。昼に壬氏とした約束である。
「素顔を見せる」。
それだけのことがAにとっては大きな意味を成す。
Aはため息をつき、重い腰を上げると、深く頭巾を被って外に出た。
執務室は、まだちゃんと明かりがついていた。昼間に毒を飲んだ人間を呼び出すだなんてどうかしていると心の中で悪態をつくA。
元気ではあるが、それとこれとは別だ。
Aは執務室の前に立つ。戸を叩かぬうちに、中から「誰だ」と言う声。
呼び出したのはそっちでしょうと心でぶつくさ言いながら、Aは「私です」と言う。
「ああ薬屋か、入っていいぞ」
壬氏の声が言い、扉がひらかれる。頭巾のせいでよくわからないが、おそらく高順が開けてくれたのであろう。
「失礼します」
Aは部屋に入る。このまま頭巾を被って顔を隠し続けるのも無礼なので、Aは最後にひとつ大きなため息をつくと、頭巾を脱いだ。
Aは眩しい光に目を細めながら正面を向く。
何か書き物をしていたらしい壬氏が目を大きく見開いてこちらを見ている。手から筆が滑り落ちた。
高順も驚愕の表情を浮かべている。
絹のように滑らかで、濡れたようにつややかな黒髪。雪のように白くすべやかな柔い肌。どんなおしろいを使ってもこんな白さは出ないだろう。
やわらかい柳の眉に、たっぷりとした豊かな薄紅色の唇が言葉を織りなす様はあまりにも艶やかだ。さらしを巻いていた故貧相だと思われていた胸回りも、玉葉妃や梨花妃に劣らない。
そして、長く濃いまつ毛に縁取られた、あの美しく透き通る紫の瞳。
「美」の権化とでも言おうか。いや、そんな言葉ですら表しきれない。
美しさでいえば壬氏も負けないが、そこに女性らしい柔らかさと、名前の通り猫のように気まぐれで、しなやかで、人を惹きつける雰囲気が重なって目が離せない。
見た者全員を虜にする、まさに「傾国」の名が相応しい。
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
