素顔 壱 ページ13
「ああ、待て」
壬氏の声がAを呼び止める。
嫌な予感がする。Aは渋々向き直った。
「なんでしょうか」
「その顔のことなんだが」
Aは壬氏が言いたいことをなんとなく感じとり、顔を顰める。
壬氏はそれに構うことなく話を続ける。
「さっき、まだ完全には化粧を落としていないと言っていたな。化粧なしはどんな顔なんだ」
「はあ、言いませんよ」
Aはそっぽをむく。翡翠宮の人間にはすっぴんを晒してしまったが、あれは事故だ。
それに、玉葉妃たちならAを妃に推すようなことはまずないだろう。自分たちに不都合だからだ。
だが、壬氏はAが妃になっても何も不自由がない。
そしておそらく、壬氏にはそれを実現するだけの力がある。
「見せてくれないか」
「嫌です」
「どうしてもか」
「どうしてもです」
壬氏がつまらなそうに口をへの字にする。
「どうして見せてくれないんだ」
「見せる理由がないでしょう」
「妃になれるかもしれない」
「それが嫌なんですよ」
言ってから、あっと思った。今のは大変不敬にあたる。
幸い部屋の中だから誰も聞いていない。Aはほっとして壬氏に向き直る。
「聞かなかったことにしてください。とにかく見せられません」
「妃に召し上げなければいいのか？」
壬氏は食い下がる。
粘着質にも程がある、Aはまた顔を顰めた。
「命令ですか」
「いや、ただの知的好奇心だ」
「なら無理です」
「そんなに俺は信用ならないか」
仮にも上司だ、ならない、とは言えない。
壬氏が咳払いをする。
「ただ化粧を落とすだけでいい。それに、素顔がわからぬ者を信用するのも難しいというものだろう？」
明らかに取ってつけたような理由だ、壬氏の瞳には新しい玩具を前にした子供のような遊び心が踊っている。
Aはため息をついた。そんな理由をつけられたら、拒否ができないではないか。
妃にならない保証があるのならば、壬氏一人に見せるだけならそこまで損害があるわけでもない。いずれにせよ、化粧について聞かれた時に返答を間違えたのが悪かった。諦めるしかないか。
「...わかりました、どうすればいいですか」
Aは観念して壬氏を見る。
壬氏はにんまりと笑って言った。
「今夜、執務室で待っている」
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泉(プロフ) - りこまるさん» 応援ありがとうございます。更新速度はこの先落ちるかと思いますが、温かく見守ってくださるとうれしいです (1月24日 21時) (
レス) id: 81a3c5614f (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - 更新速度神ですね✨応援してます！ (1月24日 17時) (レス) id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月22日 7時
