肆 ページ9
「妙なつくりの小屋だな」
やってきた壬氏が工事の様子を眺めながら言う。
「あの配管は？」
「あれで蒸気風呂の蒸気を小屋に送ります。
蒸気で小屋内の温度を上げて、天窓から十分な日光を浴びさせます。
天気の良い日には外に出します。
それを繰り返せば花が咲く季節と勘違いして、狂い咲きしてくれるかもしれません」
「...理屈はわかるが、こんな大量に必要なのか？」
二人の後ろには、ずらりと薔薇の苗の植わった鉢が並べられている。
「ええ、このすべてが咲くとは思っていません。
このうち何割か咲いてくれれば僥倖でしょう」
「しかしこの薔薇、色は」
「それは後です。
とにかく咲かないことには始まりませんから」
Aが鉢を持ち上げようとすると、壬氏がそれを制す。
「お前ひとりにやらせると傷が開くまで無理しそうだからな。鉢の移動には宦官を何人かつけてやる。
あとは、お目付け役もな」
壬氏がの視線の先を見ると。
「Aーっ！お手伝いに来たよ！」
「...小蘭？」
「何でも言ってね！」
久しぶりに会った幼い下女は、元気いっぱいで歯を見せて笑った。
こうして、青薔薇作りが始まった。
蒸気で温められた空気のなかで、薔薇を育てる。
いまだ霜が降りるような寒い朝は、焼石に水をかけて熱い蒸気を起こし、小屋を温め続けた。
空気が暑すぎるのもだめなのでたまに配管を閉じるなどして微妙な温度調節をした。
もちろん、水やりも毎日欠かせない。
毎日すべての鉢を確認して、虫がついていたら一匹一匹とって、特に見込みがありそうなものは天窓の真下において。
そうしてつぼみができたのをみたときはどんなに喜んだことか。
「ふああ」
(眠い)
うとうとしていた自分の頬をぱしりとたたいて起こす。
「A、また寝てないの！？」
小蘭が駆け寄ってくる。
「昨日は冷えたから、徹夜で蒸気炊いてたの」
「そのくらい人に頼めばいいのに！」
「でもここまでやって枯らすわけにはいかないし」
「真面目だなあAは...
あ、また見に来てるよ」
ひそ、と小蘭が耳打ちする。
見れば、水晶宮の侍女たちが柱に隠れてこちらをうかがっている。
そういえば、時折物珍しそうにか、怖いものみたさにか、水晶宮の女官がうろついていた。
「水晶宮の侍女も少しはAを見習って仕事しなさいよね」
小蘭がふんと鼻を鳴らした。
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泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (
レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました！続き楽しみにしてます！ (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月16日 18時
