小説 壱 ページ42
「...はあ。麗しい花の下に、我は何を求むるか...」
「...馬糞？」
そう答えると、目の前の友人＿＿小蘭はぶはっと噴き出す。
「何それ！」
けらけらと笑うが、Aとしては至極真面目である。
「綺麗な花が咲くには肥料が必要かなって。
それで、その台詞は何の？」
洗濯物を絞りながら尋ねる。
「これはね、小説に出てくる台詞なの！
主人公と出会った書生が、花の下でね」
はて、小蘭は確か農村生まれで字は読めなかったはずだが。
(誰かに読み聞かせてもらったのかな)
しかし娯楽が少ないとはいえ、小説が後宮で流行るなんてことは、あるわけない＿＿＿
こともなかった。
「あ、おかえりA！」
翡翠宮の部屋の扉を開けると、侍女三人娘は一緒に読んでいた小説から顔を上げてそう言った。
(...流行ってるわね)
Aは目を丸くする。
「Aも後で読む？」
視線に気が付いてか、貴園が聞く。
「いえ、...それはなんですか？」
「主上さまが妃全員に配られたんですって」
「主上が？」
Aは本を受け取って、ぱらぱらと頁をめくる。
(あ、この挿絵)
背の高い木の下で一人の男性が胸に手をやり、何かをつぶやいているかのような絵が描かれている。小蘭がやっていたのはこれか。
(大衆小説ね、高貴な方にとっては低俗な読み物扱いだと思っていたけれど)
どうしてこれを配ったのだろう。
最後の頁にたどり着いて、Aは目をぱちくりさせる。
版元の印が押されているのだが、
(この印、この間、壬氏さまに教えたところのものだわ)
では、そこで小説を刷ってもらって、妃全員に配ったのだろうか。
隣を見ると、桜花がじっと本を見つめて居る。
「...ねえ、うちって、侍女は私たちしかいないじゃない？
せっかく玉葉さまからいただいても、私たちだけじゃもったいないなって」
「わかる、他の人の感想も聞いてみたいし！」
貴園がうんうんと頷く。
「あの場面良かった、とか話せたら楽しいよね！」
愛藍も言う。
「わかります、変わった蛇の皮とか手に入れたらみんなと共有したいですよね」
Aも乗ってみるのだが、そう言うと三人とも「それは、ないな」と言いたげな顔をこちらに向けた。
げに心外である。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 324人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (
レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました！続き楽しみにしてます！ (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泉 | 作成日時：2024年2月16日 18時
