書 壱 ページ38
"Aですか？今日は医局に行くと言っておりましたが"
数日ぶりに翡翠宮を訪ねると、侍女頭がそう言うので、来てみてはいるが。
(薔薇の香り？)
ふわり、漂ってくる鮮やかな芳香。
どうやら医局からのものであるようで、怪訝な顔で壬氏は扉を開ける。
中ではAが何やら見たこともない器具で作業をしている。
「それはなんだ？」
挨拶も早々に壬氏は尋ねる。
「蒸留器です。医局の掃除をしていて見つけました。
今は薔薇の香油を作っています」
「すごい匂いだな。これ、前に集めていた薔薇か？」
「ええ、それでも野生のものに比べると薄いですよ。
見た目をよくするためかけ合わせていくと、香りが弱くなるんです。
＿＿それで、何の御用でしょうか」
ようやくこちらを向いたかと思うと、目の前の娘の口から出るのはそんな言葉。
「...外にまで香ってる、誰だって気になるだろ」
少し口をとがらせて壬氏は言う。
そして、高順からの圧に気が付いてあわてて元に戻す。
「翡翠宮ではやりにくくて、ここに？」
そう尋ねると、Aは首をかしげてから答える。
「まあ、それもありますけれど...」
医局の主であるやぶがこちらを気にしていないことを確かめて、
「＿＿香油の中には"子を流す作用"のあるものもあります。
よほど濃いものを飲むなどしない限り問題はないと思いますが...
玉葉さまもまだ不安定な時期ですから、大事を取りたくて」
「...では、後宮内で出回っている香水などは、規制する必要はないか？」
「ええ、その程度なら問題ないかと」
壬氏はそうか、というとあたりを見渡して、白い陶器の瓶を見つける。
「こっちは...うっ」
栓を抜いて、思わず声を上げる。
鼻をつんと刺す鋭い匂いがむわっと広がる。
「そちらは
酒を何度も蒸留すると、濃い酒精が取れるんです」
「...飲むのか？」
「飲用ではなく消毒用です」
「消毒？」
「これをしみこませた布で拭いたり.,,使い道は色々あります。宮中の掃除に使おうと思いまして。
これから暖かくなると悪い気がたまって身体を害しやすくなります。
まだ幼い公主もいますし、清潔にしておきたくて」
「ふむ...」
(てっきり薬いじりがしたくて医局に入り浸っているのかと思ったが)
懐妊された玉葉妃と、鈴麗公主を慮ってのことか。
(自分の仕事はわきまえている、か)
壬氏は形の良い唇に笑みを浮かべた。
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泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (
レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました！続き楽しみにしてます！ (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月16日 18時
