悪夢 壱 ページ37
「っ...う....」
壬氏は重い瞼を開く。
(ああ、...夢か)
じっとりと、嫌な汗を全身に感じる。
まだ外は暗いが、これからまた寝付けそうにもない。
壬氏はゆっくりと半身を起こすと、軽く頭をもたげてため息をついた。
(＿＿＿嫌な夢だ)
幼子の自分が、見覚えのない老人と老婆に居合わせ、老人の落とした不思議な黄色の石を拾う。
二人の瞳は濁っていて、何かを見ているようで見ていないような眼差しでこちらを見下ろしてきて。
額の冷や汗をぬぐうと、壬氏は起き上がり、寝間着の上を脱ぐ。
長い髪を一つにくくり、壁に掛けられた刀を取る。
＿＿＿雑念と動揺が襲ってくる。
こういう気は、素振りをすることで統一するのが自分のやり方だ。
嫌な気を切り伏せるように、ヒュッ、ヒュッと刀で空を断つ。
(嫌な夢を見た後は嫌なことが起こる)
あの老人と老婆が何者なのか、あの頃は知る由もなかったが、あとに教えられた。
老人は父で、老婆は祖母だと。
そして、ずっと父だと思っていた男は、兄だということも。
「っはあ、はあ、....」
＿＿もうじき、夜が明ける。
(水蓮に言って、湯浴みをしなければ)
汗臭いまま、人前に出るわけにはいかない。
(あいつが聞いたら贅沢者と睨まれそうだ)
猫のようにこちらをじっと睨むように見てくる、薬師の娘を思い浮かべる。
紫色の透き通った、綺麗な瞳の。
(仕方ないだろ...形だけでも、完璧な宦官・壬氏を演じるためなんだ)
妙なところで鈍いあの娘でも、うすうす感づいているかもしれない。
いや、気づいていて見て見ぬふりをしているのかもわからない。
(だったら気が楽なんだが)
壬氏は刀を鞘に納めながら、ふっとため息ともつかぬ苦笑をもらす。
満月に照らされながら、驚いたような顔でこちらを振り返るあの傾国の美貌を思い出して。
(あいつにいつまでも、黙っておくわけにはいかない)
本当のことを伝えられない。
それの、なんともどかしいことか。
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泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (
レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました！続き楽しみにしてます！ (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月16日 18時
