肆 ページ35
地面に降り立つと、壬氏は両腕でAの背中と膝裏を支えるような抱え方に変えた。
「...なんで持ち方を変えるんです？」
下ろして欲しいのですが、と暗に込めつつ、Aは尋ねる。
「こっちの方がお前に負担がかからないだろう。歩いたら傷が広がるし...
それに、こうして運ぶのは二度目だ」
(ああ、中祀で怪我をした時、運んでくれたのは壬氏さまだったのね)
Aはふむふむと頷き、そして何かを思い出したように、「あ」と声を上げた。
「そう言えば壬氏さま」
「ん？」
「私、壬氏さまにずっと言ってなかったことを思い出しました」
Aはその至上に美麗な面を、壬氏にぬっと近づける。
「...え」
壬氏の頬がふわりと赤く染まる。
「...なんだ、改まって」
緊張した声。
「とても大事なことなので」
少し目を伏せて、Aは呟く。
濃く長いまつ毛が、玲瓏たる玉肌に影を落とす。
「今、この状況で言わなければならないことか」
「人に見られたらまずいのですか？」
眉を下げて、とろりとした紫水晶の瞳で壬氏を見つめる。
「いや、...暗いし見られたところで...」
Aは、壬氏の胸あたりに触れていた指に、きゅっと力を込める。
壬氏が顔を赤らめたまま、ふうと息を吐いて咳払いをする。
「言ってみろ」
「壬氏さま...」
薄く紅の引かれた艶やかな唇が開いて、
「牛黄をください」
「........」
頰を紅潮させきらきらと輝く眼差しのAと、顔全体で「は？」の一音を表す壬氏。
ひゅるる、となまぬるい風が吹いていった。
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泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (
レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました！続き楽しみにしてます！ (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月16日 18時
