参 ページ34
「将棋対決で負けたとはいえ、あの軍師殿がここまで大盤振る舞いとは...」
それは嫌味だろうかとAはじっとりした目で壬氏を見る。
確かに変人軍師が支払った額は相当なものだ。
でも、目の前の貴人が自分を引き抜くために払った額は、その百倍はあったはずだ。
「いったい誰を身請けしたんだ？」
壬氏が尋ねる。
「...誰なんでしょうね」
Aは壬氏の顔を見ないまま、そうつぶやく。
「知っているんだろう？」
「どんな美人でも壬氏さまにはかないませんよ」
「答えになってないぞ、それに、それは」
Aは壬氏の顔を見た。
月光に照らされる天女のかんばせは、火照っていて。
「それは、なんです」
「.....っ、お前も同じだろ！」
「はい？」
何が、と言いかけて、真っ赤な壬氏の顔を見て理解する。
「ああ、それはどうも」
(褒めなれてないのね)
どうやら、壬氏はAの容姿もそれくらいの美しさだと言いたいらしい。
生憎、こちらは嫌というほど言われ慣れている。それで照れたりはしないのである。
(...夜風が気持ちいいわ)
頬を撫でる冷たい風に、Aは目を細める。
(久々に踊ったから、体が火照って...特に足が)
目を細めたまま、足元に目をやる。
......ん？
「わっ！？」
「な、なんだ！？」
急に声を上げたAに、壬氏が飛び上がる。
Aは無言で下を指さした。白い裳に、なにやら鮮やかな赤い染みが広がっている。
「傷口が開いてしまったみたいです」
「いや、そんな落ち着いている場合かっ」
壬氏が蒼い顔になる。
「大丈夫です、縫合道具ならあるのですぐ縫えます」
「何で無駄に準備がいいんだ」
「いつ何があるかわかりませんので」
ちなみに化粧道具もありますよと懐に手を入れる。
壬氏は「いい、わかったから、いい！」と顔を真っ赤にさせながら必死な形相で叫んだ。
Aは首をかしげる。
確かに今日は露出の多めな衣装で胸元も大きく開いているが、懐に手を入れたのはそんなにもまずかったのだろうか？
この男なら女性の胸部くらい見慣れているはずであるが。
「ああ、もう！」
壬氏は自分の頭をぐしゃぐしゃとかき、Aの腰に腕をやって持ち上げた。
「降りるまでおとなしくしてろ！」
Aとて、この傷のぱっくり開いた足で無事に下りられる自信があるわけではない。
言われたとおり、ありがたく身を任せることにした。
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泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (
レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました！続き楽しみにしてます！ (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月16日 18時
