伍 ページ31
「あの男に関しては、好きではないけれど恨んではいない、そんなところですね」
「その割には露骨に嫌っているように見えたが」
壬氏が眉尻を下げる。
「では壬氏さま。
あの男に"
って言われたら、どうです」
壬氏の表情がぴしりと固まる。
「...眼鏡を勝ち割りたくなるな」
「でしょう」
(本当はそれだけじゃないけれど)
Aは天井を仰ぐ。
中祀での暗殺未遂、止められたのはあの男が何かと調査を頼んできたからだ。
立て続けに起きた事件について、何かの前触れであるという予感があったのかもしれない。
証拠から推察することはできる、でもあの男は直感で動く。
そのうえ、それはめったに外れない。
"あいつには優れた才能があるんだよ"
かつて、おやじどのはAにそう言った。
"直感に優れていて人を使う才能がね。
だが人の顔がわからないというのは出世には致命的な欠陥だ。
そう父親に判断されたのがかわいそうでね"
(とうさんがそれだけ認めていることを、多分あの男は知らない)
これは嫉妬だ。
「まあ、そういうことで。
ところで壬氏さま、一つ面白いことを教えましょうか。
指の先って、切っても伸びてくるんですよ」
しばしの沈黙。
「薬屋、面白いかどうか以前にそれ、食事中に話すようなことか」
「失礼しました」
(おかげで苦労してないんだけれど)
Aは自分の左小指の爪を見ながら、そう思う。
「A...
好きで嫌われる父親なんていないということも、知っておいてください」
高順が遠い目でそう言って、Aはぱちぱちと瞬きをした。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
後宮に戻って数日後、Aのところに梅梅小姐から文が届いた。
あの男が、ある女を身請けしたということ。
ところどころ文字が滲んでいた...まるで、雨か何かでぬれたかのように。
身請けした女は病身で長くは持たないだろう。
(梅梅小姐にしておけばよかったのに)
Aはふうと息をつく。
小姐があの男を好きだったのかはわからない。
何度も来ては追い返される男に情がわいただけかもしれないが、
(きっと、いい妻になったでしょうに)
そんなことを考えながら手紙をたたむと、Aは手紙とともに届いた荷物の蓋を開ける。
そして、
「あ」
果実のように美しい唇から、小さなつぶやきが漏れた。
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泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (
レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました！続き楽しみにしてます！ (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月16日 18時
