弍 ページ28
「っ、き、君...！？」
「A、おいで」
言いかけた言葉を、他の声が遮って。
「はい」
Aと呼ばれた幼女がむかったのは、杖をついた男...いや、男とも女ともつかない、羅漢のよく知る人物だった。
「...お、叔父貴.....？」
頭のあたりには、"士"の駒。
叔父貴は幼女と手をつないで去っていった。
＿＿恨まれても仕方ない、それでもそばに置きたかった。
そのために力をつけた。
父から家督を奪い、異母弟を排斥し、甥っ子を養子にした。
(あの賭けは一緒に暮らす好機と思ったんだが)
まあ次の機会を作るとするか、そう思いながら酔い醒ましをちびちびやっていると。
「目が覚めたかい」
聞きなれただみ声がする。
緑青館のやり手婆である。
「うちの妓女を一人身請けするって？
銀の一千二千じゃきかないことくらいわかっているだろうね」
羅漢は額に手をやって答える。
「ああ、一万でも二万でも....十万はちときついが」
「そうかい、じゃあついてきな。選ばせてやる」
負けたのだから仕方ないが、どうするべきか。
どうせどれも大した違いはないというのに。
「梅梅、白鈴、女華もおいで！」
「おや、三姫も交えていいのかい」
「ああ、もちろん。
その分高くつくけどね」
(三姫と言われてもね)
で、あれば、梅梅を選ぶべきか。
「羅漢さま」
聞きなれた梅梅の声で、碁石が言う。
「私とて妓女の
こつこつと梅梅が窓の方に歩いていく。
「選ぶなら、ちゃんと選んでくださいね」
窓がぎい、と音を立てて開かれる。
「梅梅、勝手に開けるんじゃないよッ！」
婆が怒鳴る声に混じって、何かが聞こえる。
ふらりと、勝手に足が歩みを進める。
窓の近くへ、いや、その外へ、もっと＿＿＿
かすかに、誰かが歌を歌っているのが聞こえる。
必死に声を張り上げて、無理に歌っているようだが。
それでも、
(この旋律は、この声は、)
ばっと窓から身を乗り出す羅漢。
婆の怒鳴り声も聞こえない。
(あの歌は＿＿＿！)
最後に鳳仙に会ったあの日、あくる朝、先に起きていた彼女は何か歌を口ずさんでいた。
なんだい、その歌はと聞いた羅漢に、彼女は答えた。
"私を産んだ女がよく歌っていたものです。
母の記憶と呼べるものは、それだけ____"
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泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (
レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました！続き楽しみにしてます！ (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月16日 18時
