漆 ページ23
「しょっぱいな」
狐顔の男は少し首をかしげて言う。
壬氏は思わずほっと息を吐いた。
同時に眉間にしわを寄せる。
(薬屋の命は助かったが、これで羅漢がわざと負ける必要もなくなった)
壬氏はAの肩に手を置いて振り向かせる。
「おいどうするんだ、次の対局はきっと勝てないぞ」
そう言うも、当の本人は飄々としている。
「なにを慌てているんですか」
淡く染まった爪紅のしなやかな指が、一つ駒をつかむ。
「...まだ勝負はついていませんよ」
挑戦的な紫色が、きらりと光った。
と、
「...ふう、なんだか熱いな」
羅漢が袖で額の汗をぬぐった。
心なしか頬が紅潮している。
壬氏は怪訝な顔で羅漢を見る。
羅漢はふらりと上半身を揺らしたかと思うと、
...ゴッ、と鈍い音を立てて将棋盤の上に頭を打ち付けた。
状況が理解できずに戸惑う壬氏と高順、真顔のA。
「お、おい！？一つ飲むだけなら毒じゃないんじゃ」
「ええ、酒とは本来そういうものです」
淡々と言ってのけるA。
羅漢のそばに行って呼吸の確認をしながら続ける。
「まあ吸収をよくするために砂糖と塩を少し足しましたが」
「では、なぜ？」
羅漢はこんなことに、と壬氏は尋ねる。
「ああ...この人下戸なんです」
ぴしりと固まる壬氏と高順。
「...よく知ってたな」
数秒遅れて壬氏は言う。
「ああ、それは...」
Aは一つそうおくと、耳を疑うようなことを口にしてくれた。
「こんなのでも一応父親ですから」
脳天を雷が直撃したかのような顔をする壬氏と高順。
「ち、父親？羅漢どのが？」
「はあ、この人から聞いていませんでしたか。
一緒に暮らしたいとか、昔よく言われていたので父の情はあるのかと。
だから私が三杯飲む前にわざと一敗すると思ったんです。
そうすれば下戸なので一杯でつぶれてくれると...
そうなれば試合放棄なので、このように私の勝ちになると。
...どうしました？」
衝撃の走った顔のまま固まっている壬氏にAは声をかける。
「い、いや、
...じゃあ、うちの子になるっていうのは」
「言葉通りですよ、父娘一緒に暮らそうっていう」
「な、なんだ、俺はてっきり」
壬氏は頭をかいて顔を赤らめる。
「...てっきり、なんです？」
怪訝な顔のA。
「なんでもない！」
壬氏は子供っぽくぷいとそっぽを向いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 322人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (
レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました！続き楽しみにしてます！ (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泉 | 作成日時：2024年2月16日 18時
