玖 ページ14
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壬氏は咲きかけの薔薇が生けられた花瓶を持ち、主上と妃たちが座しているところまで歩みを進める。
周りの官たちがざわざわと騒がしくなる。
「青い、薔薇...」
「いや、青だけじゃないぞ」
「どうやったんだ」
壬氏は帝を見た。帝は壬氏の手の中の花瓶に興味津々で、物珍しそうに眺めている。
「ほう、それが青い薔薇か」
「はい。開花には至りませんでしたが、つぼみを愛で、咲く姿に思いをはせるのも一興かと」
たおやかな笑みを浮かべる。
どこかで舌打ちの音が聞こえる。
(＿＿視線を感じる)
帝に薔薇を献上し、最後にひとつ礼をする。
(壬氏という若い宦官に寄せられる、思惑を秘めた視線を)
ゆったりとした足取りで自分の席に戻る。
(色情はいい、わかりやすく利用価値がある。
嫉妬もいい、扱いやすいからだ。
厄介なのは、)
壬氏はちらりとその男を見た。
光のない目で、しかし穏やかな表情でこちらを見つめるふくよかな官。
子昌。楼蘭妃の実父。
先帝＿＿いや、その母親である女帝の寵愛を受け、いまもなお宮中で絶大な影響力を持つ。
(この男の視線からは、なにも読めない＿＿)
壬氏はそれでも笑みを絶やさず、
絶やさないはずだった。
子昌から視線を左にずらす、すなわち帝の右側に坐する男と目があった。
狐のような目をした片眼鏡の男が、場の空気を読まずもごもごと手羽先肉を食らっていた。
それでも当人は隠しているつもりだろうか、一口かじっては袖の中に隠し、またかじっては隠している。
それだけならまだいいものの、羅漢は斜め前に座っている高官の頭をじっと見て、なにを思ったのか冠をそっとつまんだ。
冠の下にはなぜか黒い毛の塊がついている。
むき出しの官の頭頂が見える。向かい合っていた高官が三人ほど撃沈した。
残酷なことをするものだ。
よくできた
まるで子どものようなその動きに苦笑する者、噴出しそうになるのを一生懸命こらえる者。
表情を崩すのは壬氏だけではなかった。
しかし、壬氏はそこで大笑いでもするわけにもいかず、表情が崩れそうになるところをなんとかこらえて緋毛氈の上に座して落ち着いた。
羅漢はわざとらしく薔薇の花瓶をながめながら、今度は干し葡萄をつまんでいた。
なぜ、こいつが無礼にならないのだろうと、壬氏は思わずにいられなかった。
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泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (
レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました！続き楽しみにしてます！ (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月16日 18時
