漆 ページ12
「もう大丈夫ですよ、馬閃さま。あとは自分で探しますので」
「何を言う、いまにも倒れそうだろう。転んでけがでもしたらどうするんだ」
「...わかりました」
Aがかすれた声でそう言うと、馬閃は少し眉尻を下げて顔を覗き込んできた。
「お前、本当に大丈夫か?顔色が信じられないくらい悪いぞ」
今朝銅板を鏡に自分の顔を見たとき、元々白く美しいはずの肌は白を通り越して青白かった。
時間がなかったのでいつものおしろいをしてきたのだが、あれは本来の肌色に合わせて作っているので今はうまく色が調和せず、中々に気持ちの悪い、土気色の顔になっていることだろう。
「...ご心配おかけしてすみません、一日ちゃんと寝れば治ります」
「そうか、ならいいが」
Aのおぼつかない足取りを心配そうに見つめながら、馬閃はAに歩幅を合わせてまた歩き出した。
「...む」
横を歩いていた馬閃が立ち止まったので、Aも足を止める。
馬閃が見ている方に目をやれば、そこには楼蘭妃とお付きの侍女数名の姿。
「...あ、父上」
鮮やかな口紅の塗られた楼蘭の唇が開いたかと思うと、そんなことを言う。
ふくよかで髭を生やした初老の男性と話しているようだ。
男性はいい身なりをしていて、後ろに従者を連れている。
(あれが楼蘭妃の父親ね)
そういえば楼蘭妃は高官の父親のごり押しで後宮に入ったんだったわ、と思い出す。
と、
「...腹黒親子め」
横からぼそりと、低い声が聞こえた。
誰に言ったわけでもないのだろう。
耳の良いAでなければ、近くにいても気が付かないくらいの小さい声だったから。
Aはちらりと馬閃の顔を見てから目線を前に戻し、少し迷ってまた馬閃の顔を見る。
「...馬閃さま、本当に無理しなくてもいいんですよ、もうここらからは一人でも」
「いや、最後まで送り届ける。
お前、自分がどんな風に歩いているかわかっているのか?
酒に酷く酔った者でもそんな歩き方はしないぞ」
「......すみません、二徹目なもので」
「は!?」
馬閃の声が裏返る。
Aは何か変なことを言っただろうかと馬閃を見上げる
「なんでそんなことになってるんだ」
「...さっき壬氏さまに渡したあの薔薇です。
最後台無しになってしまったらこの一か月が無駄になるので、自分でやっていたら、つい」
馬閃が蒼い顔をした。
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泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました!続き楽しみにしてます! (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:泉 | 作成日時:2024年2月16日 18時