陸 ページ11
園遊会当日。
壬氏はいつものように笑顔を振りまいて歩いていた。
後ろには高順と馬閃をつれている。
(ここ数日、準備に追われて顔を出せなかったが、薬屋はどうしたかな)
やはり無謀だったか、と壬氏は唇をかむ。
季節外れの薔薇、それも青い薔薇とは。
作れなかったとしても罰せられるものでもないのだが、
(羅漢)
あの男が絡むとAはやけに意固地になる気がする。
羅漢は羅漢でAにこだわりを見せる。
(あの二人に一体何が...)
「壬氏さま」
聞きなれた声に思考をとめる。
蜂蜜の声、と謳われる壬氏ですら綺麗だと思った、彼女の透き通った声。
だが今日はどこか掠れているようだ。
声のした方を見る。
目の下に隈がはって、明らかに顔色の悪いAがそこにはいた。
手には花瓶。そこには咲きかけのつぼみの薔薇が、何輪も生けられている。
「できました」
「なっ...どうしたんだこれ...
青だけじゃない、赤黄白桃、黒に紫まで！？」
「残念ながら開花には至りませんでした。難しいですね」
Aは唇をゆがめて、眉根を寄せる。
こういう顔をするのは珍しい。
が、壬氏に対してすまないというより、己の思い通りにいかなかったのが悔しいのだろう。
(そういうやつだ)
「十分だ、よくやった」
壬氏はAの頭にぽんと手をのせる。
「今日玉葉妃は欠席だが、侍女たちは来ている。
＿＿馬閃！」
「はい」
馬閃は緊張しているかのような面持ちで前に出てくる。
ちらちらとAの方を見ているが、
(こいつは
「薬屋を侍女たちのもとに案内してやってくれ」
馬閃は頷く。
「少し休め」
そう言うと、Aは「はい...」と言ってふらふらと歩いて行く。
それを馬閃が慌てて追いかけた。
二人の後姿を見届けて、壬氏は受け取った花瓶に目をやる。
...実に見事だ。
色とりどりの薔薇が同じ花瓶に生けられているのに、それぞれが個性を発揮している。
と、壬氏はその中で一つのつぼみに目が吸い寄せられた。
数あるつぼみの中で、一番形が綺麗だったからだろうか。
高潔で、でもどこか暖かい色のそれは、育てた者の瞳によく似た色をしていた。
「.....」
壬氏は何を思ったか、その一本だけを引き抜くと袖元にこっそりと入れ、素知らぬ顔で歩き出した。
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泉(プロフ) - めうさん» ありがとうございます。のんびり更新になりますが、楽しんでいただけると幸いです。 (3月27日 20時) (
レス) id: 9196073726 (このIDを非表示/違反報告)
めう(プロフ) - とっても面白くて一気見してしまいました！続き楽しみにしてます！ (3月22日 21時) (レス) id: 3ab55db304 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月16日 18時
