肆 ページ6
日の光が鍵穴からそれるまでに長い時間がかかった。
「__もういいでしょう。鍵を貸していただけますか」
「いいけど、入らないって言っただろ？」
次男の言うことを無視してAは真ん中の段の鍵穴に鍵を差し込む。
カチ、といい音がして鍵が回る。
三兄弟は驚いた顔でそれを見つめる。
「な、なんで」
「遺言の通りでしたね。中は、鍵の、鋳型？」
中に金属が流し込まれている。
「鍵穴に詰まっていた焊でしょうね」
「だが、どうして溶けたんだ？まさかさっきまで当たっていた日差しで溶けたとは言わないよな？」
馬閃が言う。
「そのまさかですよ。窓辺に置かれていた玻璃の鉢によって一点に集まった日の光は、通常の何倍もの温度になります。鉄を熱するほどに」
「そんなことがありうるのか？」
「かつて止血のため傷口に焼き鏝を当てる治療法がありました。その鏝を熱するのに使われていた方法の一つです。もちろん鉄なら溶けることはありませんが」
そこでAは一旦言葉を切る。
「___鉢を通した日の光が当たることで、鍵穴に詰まった焊が溶け、底の鋳型に流れ込むよう設計されていたのだと思います。
ほら、まだ少し柔らかいでしょう？」
馬閃はAに倣って鋳型に流し込まれた金属を触り、
「...本当だ」とつぶやいた。
「そんな低音で溶ける焊があるなんて...」三男も覗き込む。
と、それを長男が押し退けた。
「おい！その鍵は一体なんなんだ？」
Aは鍵を鋳型から取り出すと、言った。
「きっとこれが、上三つの引き出しの鍵です___」
カチャ。その音を合図に、長男と次男が身を乗り出す。
「開いたぞ！」「中には何が」
二人の目が揃って点になる。
「なんだこりゃ...鉛と錫と、結晶？これが遺産か！？」
「なんだよ、最後まで親父の冗談に振り回されたってことか！？」
「ふざけやがって！」
兄たちが口々に文句を言う中、三男だけは三つの物質をじっと見つめ、顎に手を当てて何かを考えている。
(…技は見て盗めってことね)
Aは口に笑みを浮かべた。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
