傾国のひとりごと肆 (ページ45)

今日:27 hit、昨日:76 hit、合計:47,294 hit

　　参ページ45

「うちは村を上げて紙づくりをしていてね！一時は廃業しかけたこともあったけど」

「廃業、ですか？」

「そう、むかしはよかったなあ、作れば作るだけ売れたし。
国内で売るより高く売れるから他国へ輸出したりもして、それはそれは儲かったものさ」

やぶは菓子を口に運びながらひとりごとのように言った。

「でもそれが悪かったか、先の皇太后さまが紙の原材料である木の伐採に厳しい制限をかけた。
代わりの材料も試したけど、質が落ちて信頼もがた落ち。
結局、村ごと移住することになったのさ」

「その規制って今もかかっているんですか？」

「今はだいぶ緩くなったはずだけどね。全く何であんなご禁制を出したんだか」

(それで今も市井には紙が普及しないのね)

「寂しかったのは姉さんが後宮にいっちゃったことだねえ。
移住しても先立つものがない、そんなとき後宮で女官の募集があって。
国母になってくるからって、そう言って出ていったけど結局会えないままだったねえ。
それでも金が足りなくてね、
妹まで後宮に行くなんて言い出して。
それで私が行くことにしたんだ。
なり手の少ない宦官の方が、高く買ってもらえたからね。
先の皇太后さまは後宮をとにかく広げていて、宦官も必要になっていたというわけさ」

(苦労してるのね)

懐かしそうに話すやぶの顔を見ながら、Aはそう思った。

「失礼します、太医」

しばらくして、一人の宦官が医局に入ってきた。

「なんだい？」

「文が届いております」

「ありがとう、....？妹からだ」

そう言ってやぶは中身を取り出す。

それを見て、Aは不思議に思った。

(御用達の実家から届く文の割に、ずいぶん質の悪い紙だわ)

身内あてだからか？

Aは首をひねる。

と。

「そ、そんな...」

手紙を読んでいたやぶの手が震え始めた。

「どうしたんです」

「こ、これ」

手紙を差し出される。Aはのぞき込む。そして、

「...え、御用達じゃなくなるかもしれない？」

「どうしてだ？前に文をもらった時は"もっとたくさん紙を作れるようになる"って言ってたのに！」

「たくさん作れるようになるということは、手間を省いたとか？」

「いやいや！力仕事のために牛を買っただけだよ」

やぶは頭をがしがしとかいた。