弍 ページ44
「...なにをやってるんだ」
いきなり扉が開いたかと思うと、そんな声がする。
「あ、壬氏さま。何って、医局の掃除です」
Aは振り向き、手を止めずにそう答える。
「後宮に来て四日間ずっとか！？」
呆れたように壬氏が言う。
「玉葉妃が懐妊したかどうか、様子を見ろと言ったろ！」
やぶに聞こえないよう、小声で。
「そんなの初期のうちからははっきりわからないですよ、できることも限られてます。
それよりも、最初はふせておけてもいずれ周囲に知れるものです。
そうなれば以前のように命を狙われるかもしれない、その時に備えて医局の掃除をしているんです」
遊びじゃないですよ、と付け加える。
壬氏は「...そうか」と言うと、とりあえず引き下がった。
「それならいいが、俺はてっきりよい道具や薬があればくすねる気かと思ってたぞ」
という台詞を残して。
「...そんなわけないですよー。」
Aは抑揚のない声で言った。
「...初めてもう何日目だい？」
「七日目です」
(まさか使わないからと道具の大半を別室にしまっていたとは)
ほんとにくすねるわよ、とやぶを半眼で見る。
「嬢ちゃん、ちょっとおやつにしないかい、
やぶが箱を取ってくる。
仕方ない、集中力が切れてもよくないし、ここらで休憩にするか。
「わかりました、休憩しましょう」
やぶの顔がぱあっと輝いた。
「やっぱり疲れた時は甘いものだよねえ」
そう言ってAの前に菓子を置くやぶ。
「む」
Aはそれを見て声を漏らす。
「
「なんで？」
「今の時期、
ほら、もう脂のあとが、と紙をやぶに見せる。
「ああ、それかい？実はうちの実家で作ってるものなんだよ、宮廷に納めてる御用達でね」
Aは納得する。
「道理で薬包紙もいいわけですね」
「いい紙だろう？わかるだろう？」
やぶはうれしそうだ。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
