弍 ページ42
「ありえないわー、あの格好！」
ちょうどそのころ、Aは翡翠宮侍女たちの駄弁りを聞いていた。
今叫び声をあげたのは桜花である。
「んーでも、前の胡服はかっこよかったよ」
穏やかな侍女、貴園は言う。
「そうね、人を選ぶ服だけど似合ってたな」
と、愛藍。
「...胡服なら阿多さまの方が似合うもん」
ふくれる桜花。
「桜花ったら、阿多さま派だったのー？」
「ち、違うわよ！」
(こういう雰囲気も久しぶりだわ)
Aの頬が緩んだ。
妓楼でも小姐たちはいつも噂話をしていた。
(案外後宮の仕事、向いているのかも)
「こら、あなたたち！おしゃべりばかりしてないの！」
翡翠宮侍女頭、紅娘が一括して、侍女三人娘が仕事に戻るのを懐かしく見つめながら、Aはそんなことを思った。
「A、ちょっと話が」
そう紅娘に手招きされたのは、それからすぐだった。
「どうかしら、Aの目から見て」
「玉葉さまのことですよね？」
「ええ、ご懐妊されているかどうか」
「実のところ、まだよくわかりません。鈴麗公主の時もつわりらしいつわりもなく、味覚が変わることもなかったそうですから」
「...ひとまずは外部に漏らさないようにしないとね。公主の時も二度毒を盛られたのだから」
(ああ、私の前にいた毒見役はそれで麻痺が残って辞めたのよね)
妃の力関係は帝の寵愛だけで決まるものではない。
子ができるかどうか___こればかりは通いの多さとともに相性もある。
子はできる時はでき、できないときはできないものだ。
男児のいない今、どの妃が子を授かるか誰もが戦々恐々としているところだろう。
そこに玉葉妃の懐妊が知れたら。
(大変なことになるわね)
Aは顔を険しくした。
「主上はいかがされますか、急に通いが減っては怪しまれると思いますが」
「それは大丈夫。壬氏さまを通じてお願いしてあります。
これまで通り来ていただいてるけど、玉葉さまとお話しされたり公主と遊んでいらっしゃるわ。
とにかく玉葉さまをお守りしないと」
紅娘はため息をつく。
「あ、そういうことでしたら一つ、今のうちにやっておきたいことがあるのですが」
「何？」
「玉葉さまの命をお守りするためにも大事なことです。決して私の娯楽のためではありませんので！」
Aは念押しをする。
紅娘は怪訝な顔をしながらも、玉葉さまのためならば、と頷いた。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
