参 ページ5
しかしよお、と男は続ける。
「親父も箪笥を遺産に残すんだったら、鍵くらい使えるようにしてくれりゃよかったのに」
(鍵？)
「この箪笥、開かないのか」
馬閃が尋ねる。
「ああ、上三つの引き出しは鍵が合わないし、真ん中は鍵穴に何かが詰まってるみたいで入りもしない」
(ん？)
あ、と思った時にはAは箪笥に駆け寄っていた。
「この鍵、上の引き出しの鍵穴とは素材が違うようですね」
「ああ、多分親父が作ったんじゃないかな。変わった素材や製法を知ると試さずにはいられない性質でさ」
(変わった素材、)
「あの、ここでは
「え？ええ。」
焊？と怪訝な顔をする馬閃に答えてやる。
「鉛と錫を合わせたものです。金属同士を接着させるのに使ったり」
「よく知ってるな」
感心したようにAを見、目が合うと少し視線をそらす。
まったくやりにくい。
と、窓の外からさしてきた日の光にAは目がちかっとした。
Aの紫の目は色素が薄いので眩しいのには弱い。
だからAは夜の方が好きだし、暗くなって活動することも多かったため夜目がきく。
「お、ようやくさしてきた」
三兄弟のうち誰かが言った。
「ちょうどあの窓から日がさす今くらいの時間に休憩してたよな」
Aは振り返る。すると、窓際に置いてある棚の日焼け跡が目に入った。
ふと、何かに気づく。
「あの！この棚、何か置いてありました？」
突然のことに馬閃が目を丸くするが、構っている暇はない。
「あ…この金魚鉢だよ。その頃は金魚もいたけど」
時間がない。
「今すぐ水を入れて持ってきてください。急いで！」
「お、おう！？」
三男は慌てて外に駆け出して行った。
「なんだ、急に」馬閃が目を丸くしたままの顔で見てくる。
「遺言を思い出してください」
顎に軽く手を当てて、Aはいう。
「皆、昔のように茶会でもするといい」。きっと遺言自体が、謎を解く手がかりなのではないか。
三男が金魚鉢に水を並々と入れて戻ってきた。それを急いで日焼け後の上に置かせる。
すると、
「...！？」
「日の光が、ちょうど鍵穴に！？どういうしかけで___」
がたんと立ち上がり、光の来る方向を見ようとする長男をAは止める。
「直接見たら失明しますよ。それよりしばしの間、お茶会を続けられては？」
＿＿＿それが、お父様の遺言なのですから。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
