傾国のひとりごと肆 (ページ39)

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高順は水蓮と顔を見合わせ、首をかしげて言った。

「嫌ならば飲まねばよろしいのでは。この金蓮花の粉、毎日飲んでは本当に不能になりますよ」

その言葉に、目の前の主は動揺したのかせき込む。

「お前だって同じだろ！」

「いえ、私の方は先月もう一人孫が生まれましたので」

だから、いまさら作る必要もないのだという意味を込めて、にこりと笑ってみせる。

「...お前、いくつだ」

「三十七です」

「三兄弟のうち、どこに生まれた？」

「上の息子です。馬閃にもそろそろ嫁を、と思っているのですが」

そういいながら、はて、嫁にするならどんな娘がいいかと考える。

息子の顔を思い浮かべる。
女、特に自分がそれであることを武器にして近づいてくる、女らしい女を苦手とする息子の顔を。

あの様子で行けば、そう簡単に結婚は望めまい。
女らしい女が大半を占める世の中で、馬閃が気に入りそうなのはどの娘か。

そもそも自分はそこまで女らしくない女というものをあまり見たことがない。

特に後宮でいえば、せいぜい、阿多元妃とAくらいなものだろう。

と、そこまで考えて、高順ははたと動きを止めた。

A？

そういえば、馬閃がAと初めて会った日、馬閃は帰ってからずっとどこか上の空ではなかったか。

彫金細工師の屋敷に調査に行くときも、そわそわしているようには見えなかったか。

先日、Aが主をかばって怪我をしたときに、彼女を抱えてきた主と同じような焦り方をしていたのは誰だったか。

Aの謎解きの後に、主と自分が調査のためすぐ部屋を出たのを、少しためらって結局遅れて来たのは、どういうことだったか。

まだ三回しか会っていない、まだあの傾国の姿を目にしているわけではない。

でも。

(もしかして、もしかしなくても)

高順の額を冷汗が伝った。