傾国のひとりごと肆 (ページ33)

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「だが薬屋、それならあの職人も計画を立てた一味ということか」

壬氏が尋ねる。

「いえ、おそらくは知らないまま、依頼されたとおりに作っただけではないでしょうか。
この部品と同じものをあの特殊な金属を使って作ってくれ、とでも頼まれて」

(わざわざ市井の者にこんな大層な計画、伝える必要がないものね)

Aは続ける。

「しかし祭祀で事故が起きれば職人も不審に思うでしょう？
その前に職人を消せば、依頼人の名も、低温で溶ける金属の製法もすべて闇に葬られます」

「消したって...じゃあ職人の死も病気じゃないってことか！？」

「今となっては確かめようがありませんが、時期が良すぎると思いませんか。
元々鉛中毒を起こしていたようですし、急死に見せかけて殺す方法はいくらでもあります」

いくら設計が正しくても、使われる部品がもろければ意味がない。

事実、あのまま祭祀が行われていたら。
真下にいた壬氏さまは_____

Aはそれこそ猫のように、じっと壬氏を見る。

(そういえばまさか、あそこに壬氏さまがいるとは思わなかったわ)

　

　

見つめられて、怪訝な顔をする壬氏。

Aは目線をそらし、静かに言った。

「私に言えることは以上です」

「...ああ。起きたばかりなのに済まない、助かった」

壬氏はそれだけ言うと軽く頭を下げ、出て行った。

Aの足と頭を痛々しそうに見る視線を残して。

高順もそれに続き、Aに礼をして出ていく。

これから関係者を割り出して調査するのだろう。
いずれはあの翠苓にたどり着くと思うが、これまでの緻密な計画を立てられる犯人だ、おそらく逃げる手はずは整えている。
一刻も早く犯人を特定せねばなるまい。

Aも自室に帰ろうと立ち上がって、扉のそばに馬閃がまだ立っていることに気が付く。

目が合う。
馬閃はむず痒そうな顔をして、「大丈夫か、...気をつけろよ」と、それだけ言うと、Aの返事も聞かず、壬氏たちを追いかけるように走って部屋を出て行った。

(...はて？)

Aは首をひねる。少しは心を開いてくれたということなのだろうか。

とりあえずこの貴人の部屋にいつまでも居座り続けるわけにもいかないので、怪我した方の足を動かさないようにしながら、片足で自室に戻ることにした。