陸 ページ32
「おい、お前っ...」
「薬屋、大丈夫か！」
焦ったように入ってきたのは、馬閃と壬氏である。
高順に肩をつかんで止められ、気まずそうにそっぽを向く馬閃と、水蓮の「あらあら」という顔に我に返る壬氏。
結構似ているなとAは思う。
「...それで、どういうことなんだ？」
一つ咳払いをして、壬氏がAに尋ねた。
「まずこれは、偶然を装った"事故"が重なって起きた"事件"です」
「偶然を装った...？どういう意味だ！」
「馬閃」
高順がまたも馬閃をたしなめる。
馬閃はもどかしそうにAを見て、目が合うとあわててそらした。
「一つ目の事件、礼部の長官、浩然さまが酒宴の席で亡くなったところから始まります」
Aは話し出した。
その深みのある透き通った声に、皆が落ち着いて話に聞き入る。
「浩然さまの死は、ただの飲みすぎではなく、大量の塩が入った酒を一気に飲んだことで起きたものでした。
二つ目は食糧庫の小火騒ぎ。
騒ぎに乗じて、同日祭具を収めている倉庫で窃盗がありました。
平時であれば窃盗にもすぐ気づいたはずですが、礼部の長官だった浩然さまが亡くなった直後で、後任も気づけなかった。
有毒の海藻入り膾を食べて、昏睡していたからです」
皆、はっとした顔になる。
「でも、だからって祭祀で何か起きるとわかるのか」
驚いたような、不思議そうな顔の馬閃。
「いえ、この段階では私もつながりに気づいてはいませんでした。
盗まれた祭具があの彫金細工師が作ったものだと知るまでは」
「彫金細工師って、あの謎の遺言を残して死んだ？」
「ええ。
祭祀では鉄線で鉄柱を吊り下げ、床の固定具で止めていました」
Aは元祭壇設計士から借りてきた図を見せる。
「例えば、ここやここで、火の熱が当たる箇所に、熱で溶けるような金具が使われていたら？」
「そんな程度の熱で溶ける金属があるのか？」
言ってから、馬閃があっと声を漏らす。
「...目の前で、一緒に見ましたよね。低温で溶ける金属を、あの職人の家で」
馬閃が目を見開いたまま、頷く。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
